第一章 出会い

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第一章 出会い

衣乃(いの)」  名前を呼ばれて顔を上げる。声の主は母。 「早く制服着ちゃいなさい。入学式、遅れちゃうでしょ」  そう言ってテキパキと鞄を準備する母は、白い礼服に身を包んでいた。そう、今日は私が中学校に入学する日。私が、中学生になる日。 「はーい」  昨日練習した、ネクタイの付け方を思い出しながら鏡の前で着替える。ワイシャツも着慣れない。これから毎日これを着て登校するのかと思うと、少し窮屈だ。 「あら、結構似合ってるじゃない」  着替え終わってリビングに出ると、開口一番母は褒めてくれた。 「ネクタイの付け方も上手いし」 「えへへ、そうかな」  緊張が、ほんのちょっとだけ解けた気がした。  ***    桜舞い散る路を、二人で歩く。 「春だね」 「うん、春だ」  何気ない会話。そういえば、春休みは小学校の頃の友達と遊んでばかりで、家族と話す機会が少なかったな……母と二人で話すのは、すごく久しぶりだった。 「衣乃も、もう中学生なんだね」 「……うん、中学生」 「入学式、緊張してる?」 「ううん、別に」  中学生になるって言ったって、私が進学するのは地域の公立中学校。小学校が同じだった人も多い。  私がこれから入学する日向中学校には、同じ地域の「日向第一小」「日向西小」「榊原小」という三つの小学校から生徒がやってくる。もちろん、全員ってわけじゃなくて、学区の関係で他の中学に行く子もいるんだけどね。 「友理ちゃんと離れちゃって、寂しいね」  母が言う。「友理ちゃん」は、私の親友だ。同じ西小学校で六年間を過ごしたが、中学は別々。私は日向中に、友理ちゃんは隣の学区の中学へ行くことになった。 「うん、でもまあ、会おうと思えば会えるから」  校門まで、無言が続く。桜の花びらが仕切りに降ってくる。このあたりの街路樹には桜の木が多い。否が応でも春の到来を感じさせる道だ。 「あ、着いた」  家から歩いて10分ほど。そこに、私の新しい「居場所」はあった。  春の青空に白い校舎が映える。  この物語の舞台は、ここ――市立日向中学校。  これから、どんな出会いがあって、どんな生活が待っているんだろう。私は少しの不安と、ささやかな期待を抱いて校門をくぐった。
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