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第二章 決意
翌日の給食の時間のことだった。ナイスタイミングと思わず言いたくなるような、そんな放送が流れた――それは、生徒会選挙についての説明会の連絡――。
『連絡します。今の時点で生徒会本部役員への立候補を考えている人は、昼休み、研修室へ集まってください。繰り返します――』
日向中学校では、四時間目が終わると給食の時間があり、そのあとに二十分間の昼休みがある。委員会などの集まりの連絡は、給食の時間に放送でされるのだ。
そして今、「今の時点で生徒会選挙への立候補を考えている人」に集まってほしいという連絡が流れたけど――――私は、行くべき?
給食の竜田揚げをもぐもぐしながら考えていると、遠くでこんな会話が聞こえた。
「え、沢波くん行くの?」
「まあ、一応。『今のところ』って言ってたから」
「へー!立候補考えてるんだ」
「まあね」
沢波甲斐と、その近くの席のクラスメイトの会話のようだ。……沢波、やっぱり立候補するつもりなんだ。
あの日、私に「選挙、出るの?」と聞いてきたアイツ……まさか、ライバルの数を確かめるために、聞いてたのか……?そうだとしたら、沢波の決意は相当固い。
「なんかムカついてきた。研修室、行くしかないっしょ」
そう呟き、私は食器を片付けに行こうと立ち上がる。すると、隣の席の市川未来もちょうど食べ終わった頃のようだった。
「河海さん、選挙出るんだ」
どうやら呟きを聞かれていたらしい。
「いや、まだ決定してはいないんだけど……」
「僕はいいと思うけどね」
私はハッとして市川くんを見た。
彼は、眼鏡の奥の目を細めて笑っている。
「河海さん、生徒会、似合ってるよ」
「……ほんと?」
「うん。学級委員としての功績っていうのかな……も、そうだけど、普通に生徒会って響き、かっこいいじゃん?合ってるよ、河海さんに」
市川くんがどうしてこんなにも私を励ましてくれるのかは、わからない。だけど……
「ありがとう、なんか元気出てきた」
隣の席のクラスメイトの、何気ない言葉――それに、私が背中を押されたのは事実だった。
「今日の集まり、行ってみるよ」
私の言葉に、市川くんは小さく頷いた。
***
キーンコーンカーンコーン。
給食の時間の終了を告げるチャイムが鳴り、同時に昼休みが始まった。廊下は一気に、校庭に出て遊ぶ人たちでいっぱいになる。
私も、筆記用具だけを持って、そっと教室を出ようとした――が、見つかってしまった。
「なんだ、河海。結局行くんじゃん」
後ろからの声に振り向くと、そこには私を見下ろす沢波甲斐が立っていた。身長は私より少し高いのに、いわゆる童顔と呼ばれる可愛らしい顔をしている男子……こんなんだから、他の男子たちから「沢波くん、かわいい」って言われるんだよ……。
って!話がそれた。
「沢波……も、行くんだよね?」
「ああ」
沢波はニコリと……いや、ニヤリと笑った。
「前聞いたときは、あまり乗り気じゃなかったくせに、行くのかよ」
「まあ……ね、今のところ考えてる人って言ってたし」
「ふぅん」
研修室は職員室の隣りにある小さな教室だ。そこまで、二人で並んで歩く。
私はド直球に聞いた。
「なに、沢波。ライバルが増えて残念って感じなわけ?」
「いや別にそういうわけじゃない。ただ」
……ただ?
「河海がいてくれて、心強いなって」
いやいやいやいや、なんですかその不意打ち!? っていうか不意打ちなのか!?
一人あたふたして黙り込んでしまった私を見やる沢波。私はなんだか恥ずかしくなってそっぽを向いて歩いた。
そんなこんなで、あっという間に研修室前に到着。
「開けるよ?」
沢波がドアに手をかけ、静かに開く。
その中には――――。
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