第二章 決意

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「じゃ、今から選挙について説明していくわけですが……その前に、生徒会本部担当の先生からお話をいただきましょう」  咲間先生は話し始めるなり、そう言って、ドアの方を向いた。 「夜野(よるの)先生、入ってきちゃってくださーい」  私と沢波は、それを聞いてびっくり。だって、夜野先生は……私たち一年一組の担任なんだもの。 「はーい。どうもこんにちは。僕が生徒会担当してます、夜野広樹(よるの ひろき)です。宜しくお願いします」  毎朝顔を合わせている、三十代前半の若い男性がドアの向こうから姿を現した。ワイシャツにスーツのズボン、その上にパーカーを羽織っているいつものスタイルで登場してきた担任。その姿を見て、私はなぜか安心感を覚える。 「えっと、まず生徒会本部というのはですね」  夜野先生が人差し指を立てた。 「まず一番に言えるのが、学校の代表になるってこと。つまり、本部役員八名が『日向中の代表』、学校の名前を背負うということです。だから、色々なことを率先してやってもらいます。もちろん、行事の運営の中枢となって働いてもらうこともあります。例えば、そうですね……」  と、こんな調子で、本部の仕事について延々と話し続ける夜野先生。彼の話は、咲間先生が止めるまで続いた。まあ……まとめると、やっぱり大事なのは「代表」になるってこと!生徒会って、きっちりしてるイメージがあるもんね。  かわって、選管の咲間先生が話し出す。 「今の夜野先生の話にもあったように……選挙というのは、代表を決めるものです。だから半端な気持ちで臨んでほしくないし、とは言っても、ここに集まるほどのメンバーなら大丈夫ですよね?」  そう言って笑う咲間先生。 「これから、もう少しで夏休みに入るわけですが、その間に決めておいてくださいね。本当に選挙に出るのかどうか。夏休み後にまた招集をかけますが、もしかしたら人数は増えてるかもしれないし、減っているかもしれない。それは分かりません」  ……そうか、夏休み。これから、二ヶ月に渡る長期休みに入るのだ。そしてそれが終われば、いよいよ本格的に動き出すことになる。 「ただ……今の人数を見ると、二年生五名、一年生三名で定員ピッタリですね。このまま増減が無ければ、このメンバーで決定ですよ。一応信任投票という形は取りますけどね」  咲間先生と夜野先生が私たちの方を見て頷いた。  信任投票っていうのは、立候補人数が定員数にピッタリでも、全校の前で演説して「その人を信じて任せられるかどうか」っていう投票をして決める形式のこと。どちらにしろ、日向中みんなの意志によって、本部役員は選ばれるということ。  私も……研修室の面々を見渡してみる。  サラサラの短髪に、まだあどけなさを残した顔の、明るそうな男子の先輩。  冷たそうな顔をした、背が高い男子の先輩。  長めの前髪の下に、鋭い眼光を覗かせる先輩。  前髪をすべて上げたポニーテール、明るい雰囲気を醸し出している女子の先輩。  お下げ髪に丸眼鏡、図書委員スタイルの優しそうな先輩。  そして、沢波、井神、私。  ……あの童顔の先輩と、長めの前髪の先輩と、ポニーテールの先輩は、知ってる。今の、生徒会本部役員メンバーのはずだ。確か……名前は小笠原(おがさわら)さんと、桐野(きりの)さんと、白神(しらかみ)さん。  このまま行けば、このメンバーで次世代の生徒会を引っ張っていく……。    そう考えると、なんだかとてもワクワクした。  私もこの人たちと、同じ前線に居たい。  沢波と、井神という心強い仲間もいる。  だから……生徒会役員に、立候補しよう。  私の心が決まった瞬間だった。 「じゃあ、今日の集まりはこれで終わりでーす。皆さん、次の授業に遅れないように帰ってくださいね」  咲間先生の号令で、私たちは次々と研修室を出ていく。今日の集まりは、これで終わり――次のステップは、夏休みが明けてから。  研修室から教室に戻る私の足取りは、なぜか軽かった。
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