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今日の部内戦で決めるのは、新人戦の団体メンバー。剣道には個人戦と団体戦っていうのがあって、個人戦はその名の通り「個人」でトーナメントなりリーグなりを戦うんだけど、団体は違う。――個人の勝ちではなく、チームで勝ちに行く。それが、団体戦。
中学の大会は五人制で、それぞれポジションに名前があるんだ。
一試合目を戦う、斬り込み隊長が「先鋒」。
二人目、先鋒に続くのが「次鋒」。
三人目、スコアを手堅く守る「中堅」。
四人目、最後まで繋いでいく役割の「副将」。
五人目。チームを背負う勝負師「大将」。
この五人が順番に試合をして、勝ち負け引き分けを決めるんだ。で、五試合終わったところで勝ち数が多いチームが勝ちになる。もし、勝ち数が同じだったら試合の中での「一本」をどれくらい取ったか――「取得本数」で勝敗を決する。それでも引き分けだったら、チームの中で代表を選出して、代表戦を行う。これは、どちらかが一本取るまで続ける仕組み。
「で、」
道着袴に着替えて竹刀を用意していた私の前で、同じクラスの剣道部員――町田麻由ちゃんがパンパンと手を叩いた。
「衣乃ちゃんは、どういう作戦で来る?」
ふんわりボブヘアをサラリと揺らして、可愛く首を傾げてみせる麻由ちゃん。らんらんとした目で、私を覗き込んでくる。
「あのね」
私は竹刀の柄の部分で、コツンと麻由ちゃんの頭を突っついた。
「言うわけ無いでしょ。試合前からの心理戦やめてよね」
「わはは、バレたか」
ニカッと、麻由ちゃんが笑う。
「素直な衣乃ちゃんなら、さりげなーく聞けば作戦とか話してくれるかなって思ったのに」
「私はそんなにおバカじゃありませーん」
私がそう言ったところで。
「でも確かに……衣乃さん、怪しい詐欺師さんとかからの電話に、すぐに引っかかってしまいそうな心配、ありますよね」
着替え終わった船井みつるが、その流れるような長髪を束ねながら、言ってのけた。
「ちょっ!? みっつー、それどういう意味よ!」
私はツッコむが、それを聞いた麻由ちゃんが更に調子に乗る。
「え、だよね! なんか衣乃ちゃん、しっかりしてるんだけど危なっかしいっていうか」
「素直すぎるのではありませんこと?」
「あー、ね。ある意味褒め言葉だけど、足元すくわれそうよね。それこそ詐欺とか」
「くれぐれも、悪い人たちの口車には乗せられないでくださいね?」
最後のセリフを、本当に心配そうな顔で言ってくるみっつー。そして、明らかに意地悪な笑みを浮かべている麻由ちゃん。私は、怒るべきなのか、無視するべきなのか悩み、結局後者を選んだ。
「ふん、みっつーも麻由ちゃんも、もう知らない!」
顔をツンとそむけ、歩き出す。
「あー、いじけちゃったよ。みっつーどうしてくれんの」
「わたしは悪くないです! 麻由さんが言い過ぎたのではなくて!?」
「責任転嫁やーん」
「だからそれは麻由さんですって」
私の後ろで言い合いを続ける二人。そんな彼女らに、私は親切に教えてあげる。
「ふたりともー! 部活始まっちゃうよー! 亜生先輩なんかは、もう防具も付け終わってるよー!」
「うわー! 急がなきゃー!」
二人の言い合いが止み、バタバタと道場の中へ走ってくる足音が聞こえる。そんなドサクサに紛れて、麻由ちゃんが私に尋ねた。
「で? 衣乃ちゃん得意技なんだっけ?」
――言うわけないでしょ!
***
ここまでが長かったけど、そんなこんなで部活は始まって。
「じゃー、基本メニューまで終わったので、このあと五分休憩してから試合に入るぞー。男女それぞれ総当りだから、試合数多くなること見越して、審判とかタイマーとかの準備・交代は素早くやれよー」
稽古が一段落したところで、男子の方の部長・坂本先輩が指示を出した。私たちは「はーい」と返事をして、試合準備に入る。
先輩たちは先輩たちで
「一年生には負けたくない」。
私たち一年生も
「先輩に勝ってみたい。そしてあわよくば団体メンバーに……」。
いつもは仲間だけれど、同時にライバルであるという側面を持つ私たち。日向中剣道部は今、燃えていた。
「衣乃さん、負けませんよ?」
みっつーが私の肩をちょんちょんとつついて言う。私はそれにつつき返しながら、隣に居る麻由ちゃんにも同じ仕草をする。
「麻由ちゃん、負けないよ」
「それは、こちらこそ」
皆の目に宿る、メンバー入りへの思い。勝ちたい、負けたくない。その思いが私たちを鼓舞して、突き動かす。
――私も、勝ちたい、メンバー入りしたい。そう思っていたけれど、心の奥底には不安もあった。
(先輩も他の同級生も皆頑張ってる……。こんな中じゃ、勝てないよ……)
そんな思いが、顔に出てしまっていたのだろうか。私が審判をするときに使う赤と白の旗――審判旗を運んでいると、すれ違いざまに女子部長・常堂亜生先輩に声をかけられた。
「衣乃ちゃん、『審判の心を掴む』だよ?」
え……?
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