白狐にされたお姉さん

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 慣れよう。新生活に慣れようと思ってい色々と試行錯誤を繰り返してきた。自分から先に挨拶するとか、先に話しかけてみたりとか。今までそうやって学校生活をして問題はなかった。でも、耳に届いてしまった。 「転校してきたからって調子のってる」  すかさずその言葉に即、反応していたのが城川君。多分、クラスのリーダ―って感じ。 「何が調子のってるだよ。どこが調子のってるのか言ってみろよ。言ってきてやるから俺が」  ハァ、と溜め息をついた。私、最初っから後ろの端で、読書しながら全て聞いていた。  私の席へ来ようと歩き出した城川君を女子数名が止めた。 「そんなんじゃなくて。何か積極的だし」  積極的が悪い? だから調子のってるって言ったの? 意味不明なんだけれど。  放課後の教室。まだ部活をやるか決めていないし、もう数ページで読み終わるから読んでいたら、パタパタッと上履きの音と「ヤベッ」という声。  2人同時にお互いに気づいた。 「ごめん、城川からの伝言。昼に森丘とかが言ってた事、気にしないでって。美野原さんは自分の思った通りで良いからって。城川いま来れなくて」 「ありがとう小栗君。城川君にありがとうって伝えておいてほしいの」  片手を上げて小栗君は急いで階段を下りて行く。校庭にはいない城川君。バレー部だから体育館でやっているんだと思う。教室から見れたらいいのに。  ひとり昇降口に向かい校門に向かう。そうしたら小学生に声をかけられた。 「あの、部活ってまだやっていますか」 「うん。確か18時までだったかなあ。お兄ちゃんかお姉ちゃんいるの? 」  一瞬、頷きかけて首を振る。怪しいなとも思ったけれど、先生の子どもかと訊いても首を振られた。じゃあ誰を待っているのだろう。 「じゃあ帰ります。ありがとうございました」  気になる。森丘さん達に調子のってるって言われたけれど、あの子が気になっている私。走って行く小学生を見失わないように公園へ向かっていく姿を見て後を追って行った。もうすぐ公園。  その直前に、警察署近くの掲示板を見て足が止まった。  白狐女(びゃっこめ)を探しています 変身前はこんな人間です  ご協力お願い致します  城川君に似ている。直感でそう思った。でもありえない。まさか白狐女と城川君が身内だなんて考える方がおかしい。世の中には自分に似ている人が3人いるのよ、とお母さんが言っていたっけ。きっとそれだ。 「あっ城川君。嘘でしょ? 」  校門で私に声をかけてきた小学生と、周囲を一度チェックするように見回しして走り出したのは城川君だった。パニックで頭が混乱。  私も距離を取って、まるで尾行する刑事のように2人を追いかける。止まらなかった。気になって仕方なくて。  どんどん奥へと行ってしまう。公園の奥の林の手前の祠で2人は手を合わせて、また走り出した先には洞窟のような昔のトンネルのような場所があった。 2人はその中に入って行く寸前だった。  ふと振り返った城川君が目を見開いた。私は逃げられず木の脇で俯く。近づいて来る城川君が笑顔を浮かべている。でも私は後ずさりして行く。 「美野原さん、話したいんだ俺」  きっと顔が引きつっている。私は「ごめんなさい。教室で助けてくれたのに」と小さい声で言い続けていた。 「やっぱ美野原さんだと思った」  えっ知ってたの? 私がいる事を知っていたの? 何処から? ?マークに頭を占領された私は無言。  城川君が言った。 「校門で小学生に声かけられたろ? あれ俺の弟の慎斗(まこと)。話した相手を訊いたら、カバンに付いていたキャラクター言って。あぁ美野原さんだって。ごめん、警察署脇の掲示板も見たよね。一緒に来てほしい」 「ごめんなさい。私こんな事するつもりじゃなくて」  これ本心。でも尾行の真似事して、こんな事するつもりないなんて・・・・・・疑われて当然だ。 「もう謝らなくて良いよ。これだけは約束してほしい。これから知る事は誰にも言わないでほしい」  私は頷く。城川君の目を見てもういちど頷く。城川君を裏切る事なんて出来ない。  洞窟のようなトンネルの中へ入って行くと、そこにいたのは城川君の弟と・・・・・・白い毛並みの美しい狐。確かあの掲示板に白狐女という漢字3文字にビャッコメというルビが振ってあった。この白狐がそうなのだろうと思った。 「大斗、こちらの方は? 」 「俺のクラスメイト。転校して来たばかりで。でも、とっても良い人で。約束してくれた。姉ちゃんの事は誰にも言わないって」  白狐女は城川源美(しろかわもとみ)と名乗った。私も名前を伝えて城川君を見た。どうしよう。本当に白狐女がいる。いまの脈拍きっと異常値。城川君の姉が白狐女。夢だと思えば良い。でも思えないけれど。  白狐女は、私を椅子に座らせて、器用に冷蔵庫を開けてペットボトルの紅茶を出してコップに注いでくれた。普通に立ち上がっていて再びパニック。  白狐女は神社で巫女をしていた。そこは親戚の男性が宮司をしている神社。ある時、事情で仕方なく慣習に従えなかった結果、白狐女にされてしまったのだと言った。 「あいつがいけないんだ。姉ちゃんが慣習を廃止するように忠告したら怒って呪文唱えた」 「美野原さん、私は早く人間に戻りたいです。弟たちと一緒に呪文を解いて人間に戻して下さい」  私は強く頷いて城川君と弟を見て、もういちど強く頷いた。            (了)  
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