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西の帝でも在った縁。現在其の元帝は、隣国東の国軍武器保存倉庫の管理役として、泥と錆と汗に塗れて日々職務に励んで居た。立場上の問題もあり、一週七日の内、四日は超えぬ様にと出勤の制限を紫電より定められた。後当初の約束通り、紫電が施設へ向かえぬ日は立ち入り禁止。しかし、許される日数は欠かさず治安維持部隊施設へと出勤する縁。此の状況へは、隊員達が動きを止めて見入ってしまう程に驚いて居た。思えば初日の印象は、異様に暑苦しい変わり者。が、己等の枠を超えた変わり者であったと口々に。其れもそうだろう、元帝でもあり将軍の奥方で在られる人物が、隊の下っ端職とも言われる武器庫の管理役だと。雑用も良い処だ。代わる代わる、物見遊山に向かう隊員達。すると、本当に汗を流しながら仕事をする、将軍の奥方が其処に居たのだから。
当初、遠巻きに見て居た隊員達。しかし、徐々に其の距離は縮み行く。拝と共に挨拶を貰うのは通常であろう。だが、一人二人と縁と言葉を交わす者も。武道を愛する縁へ、隊員達より武術に関する知識や武器の応用法から、隊内で話題の挿話等々。顔を合わせる度に、其の表情も皆気の置けぬ仲間へ接する雰囲気へ。だが、其処にはもう一つ芽生え始めたものも。紫電と同等の、縁への敬愛と忠誠心である。一件より大切な仲間を奪われ、東皇家貴族等へ強い不信感を抱いて居た。今此処に居る隊員達にとって、信じられる者は僅か。飛燕を救おうと動いてくれた紫電、桜花、富士、白雪。其の中へ、生まれから違う余所者の縁が加わったのだから。
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