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縁の声へ、改めて其の顔を見てみた白雪は驚いた。縁が、涙を浮かべながらも其れを堪えて居る様で。
「えっ、縁殿、どうされました……っ」
「伯父上、泣かないで下さいっ」
狼狽える白雪と飛龍。飛龍は、縁の顔を下より覗き手を取る。縁は、胸に湧き上がる感動が抑え切れないのだ。
「何を仰いますか、義叔母上……っ、紫電は、貴方が居たからこそっ、立派になられたのです……っ」
涙ながら、そう強く声を出した縁。白雪は、縁の心の何かに触れてしまった様だ。もう鼻水も出そうな勢いなのか、大きく鼻を啜る音に白雪と飛龍も目を見張る。真に、容貌と性質が嚙み合わぬ御方だと。しかし、白雪も色恋に慣れぬと言え此の年。紫電を語る眼差しの中に、以前の縁とは違う感情が見え。
「縁殿。貴方と居られる事で紫電は、東の精神――其の真髄へ辿り着けるやも知れません」
そう告げた白雪。
「は、い……?」
顔面の状態其のまま首を傾げる縁へ、白雪は笑みを溢し頭を下げる。此れ以上は野暮であろう、己のはやとちりにも少し省みつつ。
「紫電を宜しく御頼み申します。さ、朝餉へ向かいましょう――」
促す白雪へ、縁と飛龍が顔を見合わせる。と、気遣いつつ無言で飛龍が手拭いを差し出してみたり。再び揃い、足を進める中。飛龍との和やかな会話に、すっかり涙も乾いた縁であった。
食卓へ辿り着いた三人。やはり、紫電よりは早く。だが、もうそろそろ頃合いかと縁は襖の方へ軽く目を向ける。すると、遠く聞こえる駆け足気味の足音に、口元が緩みそうに。其れが近付くと、途端に足音は静かになって。
「御待たせ致しました」
給仕の侍女が開いた襖より、紫電の姿が。少し呼吸が乱れる其の様へ、縁は嬉しそうに笑みを浮かべた。
「御疲れ様に御座います」
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