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紫電を見送ると同時、縁は其の場へ集う家臣達へ何やら円陣を組むかの様に促し相談を持ち込んだ。家臣等は、どうなされたと戸惑いつつも神妙に其の円陣へと誘われる。
「頼みがあるのだが、本日紫電より先に治安維持部隊施設へ向かいたいのです」
顔を寄せ合い、打ち明けられた縁の依頼。他は、其れへ難色を示した。一人、最も年嵩の家臣が神妙に頭を下げて。
「奥方様。治安維持部隊施設への御送りは、紫電様が確実に施設内へいらっしゃる時に限り――」
「今聞いたでしょう?確実に来るのだから、少し先に居ても問題ありませぬ」
声を潜めつつも、家臣の言葉を遮り強く出た声と眼差しへ家臣は狼狽える。
「い、いえっ、しかしですな……っ」
僅かな可能性と言え、奥方へ何かあれば紫電からの厳しい追求は免れない。縁も当初道場での紫電へ怯んだ様に、常の紫電は性質も相成り職務も私生活も厳格。他家臣等も、意見するには隙無く在らねばと構える程。そんな家臣等の戸惑いと狼狽えへ、縁は円陣を組む腕へ力を込める。
「此れは、私が此処へ導かれ成すべき職務でもあるのです。彼等を知り、学ぶ事で私は東の精神を身に着けたい……其れには、一時も無駄には出来ぬのです!」
暑くる――基。熱い眼差しと懸命に訴え掛けるかの様な声に、家臣等が目を見張る。そして、中で最も年嵩の家臣が。
「奥方様……其れ程迄に、此の東を……っ」
年故か、今は昔を偲ぶ思いの強さか。近頃の若者の軟弱さを垣間見る事への寂しさも有りて、こんな古風な精神の若者を前に涙し出した。他も其の空気感に流され、胸に込み上げる何かを堪える様な表情へ変わり行く。
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