変わる景色。

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 嘗て断られた交渉だが、再び口にした。其の強い眼差しへ、紫電は一瞬怯むが。 「成りません。貴方へ雑用等――」  「雑用等では無い。国を守る為に、無くては成らぬ職務だ」  縁が強く断言する。目を見張る紫電。だけでは無く、其の職務を与えられて居た望も。縁が続け。 「我等の婚姻は、其々の国の為。私には、東へ奉仕する義務がある。どう足掻いても余所者の私は、一から学ばねばならない。東の防人達に、少しでも認めて頂く為に」  訴える声は、やはり強く。宮に籠もって、上より眺めて居る様では何も学べない。西に居た頃からそうであった縁は、民や家臣と精神の距離感を何より重んじたいのだ。共に景色を眺め、思考したい。常西より一歩前を行く東では、今時泥臭いとの印象を与えるやも知れない。しかし、縁は此の術しか知らぬ。西の為に、莫大な金と支援を与えてくれた東の国、其の民達。縁の誠意は、己が自ら動く事でしか示せぬと。  紫電は、暫し言葉を失ったが。 「貴方と言う方は……」  何処か諦めた様な溜め息と共に、そんな声が出て居た。そして、望へと顔を向けて。 「望」 「はっ……!」  身を改めて、直立不動の望。其の緊張は最高潮だ。何を言われるのかと、胸の嫌な鼓動を感じて居ると。 「お前達の職務は、縁の言葉通り重要なものだ。雑用とは、言葉が過ぎた。済まない」  何と、将軍より謝罪を頂いてしまった。当然ながら、予想の向こう側であったので。 「はっ……えっ、あ……!と、飛んでも御座いません!はいっ!」  動揺と戸惑いが先立つ返答となってしまった。折角紫電より声を貰えたと言うのに、己のつまらなさに若干落ち込む望。  しかし。 「聞いた通りだ。縁へ、お前達の職務について紹介を。只、細心の注意を払ってくれ……怪我は決してさせぬ様に」
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