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最後に付け足された言葉には、圧も込められた様な。其れへ一瞬身構えた望であったが、拝と共に其の命を受け止めた。
「有り難う、紫電!」
紫電の大きな歩み寄りを頂き、縁は満面の笑みで頭を下げる。其の余りにも嬉しそうな笑顔へ、紫電は見惚れ固まってしまう。が、此処は職場、周囲には部下が居る。動揺を押し殺し、最もらしい咳払いと共に表情を引き締めた。
「良いですか。負傷には特に御気を付け下さい。体調等に気を配って、決して無理の無い様に御願い致します。本当に、其れだけは絶対ですよ」
出たのは過保護な言葉。周囲も、此の様子へ一瞬で多くを察する。どうやら将軍が奥方の動向を注視するは、体裁唯一つではなさそうだと。
そんな不思議な視線も当人達は気付けない。紫電の心配を、素直に有り難く受け取る縁が再び笑顔で。
「勿論だ、有り難う。紫電も体調には気を付けて!」
其の言葉を貰った紫電の、何とも幸せそうな笑み。紫電は、そんな幸福感の余韻と共に縁へ頭を下げて、大志と琢磨を振り返った。が、其の表情は何時もの厳格なもので。
「そなた達へは、引き続き縁の警護を頼む。私も、又此方へ戻ってくる。移動や緊急の際は報告を。私は、第拾番部隊の訓練に向かう」
「御意に!」
改まり、拝にて声を上げた二人。持ち場へと去る紫電の背を、皆で見送る。其の気配を感じつつ、紫電の心情は複雑。やはり、縁が気に掛かって。と言うより、縁への思いを自覚して以降女々しい迄の独占欲にも気が付いたのだ。勿論、危険な仕事で怪我等をして欲しくない事も、体裁上の理由もあるにはある。しかし。
「あの御方の世界は、私だけでは埋められぬ程広い様だな……――」
自嘲と溜め息。呟いた本音は、初めて知る恋の悩みであったと言う。
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