抗えぬ現実。

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「――紫電。御疲れ様」  宵の床にて、紫電へと改まりそう労う縁。どうやら待って居る間に、武器に関する書を広げて居た様だ。其れへ苦笑いを浮かべた紫電は、腰を下ろしながら。 「縁こそ、御疲れ様です。本当に体の方は大事ありませんか?」  縁を気遣う。職務日数を制限したとは言え、縁は弓術の鍛錬にも向かって居る様だと聞き及んだ。因みに、営みがあった翌朝の鍛錬は控えて居るが。  縁は、紫電の気遣いへ擽ったい喜びに照れ笑い。 「有り難う。しかし、紫電に比べれば大した事の無い疲労だ」  そう答えた縁を見詰めて、紫電も表情を和らげる。そして、ゆったりと息を吐き。 「縁。貴方は真に、天子足る御方なのですね」 「ん?私は、もう帝では無いが……どうかしたのか?」  少し照れながらも目を丸くさせる縁へ、紫電が口を開く。 「貴方は、隊員達へ認められる為に東の精神を学びたいと仰った……皆当初は貴方の動向へ戸惑いもあった様ですが、貴方の姿へ触発される様に訓練へ臨む表情が変わりました……巧く言えないのですが、皆嘗ての表情へ戻りつつあるのです」  そんな打ち明けへ、縁は目を見張る。 「先日視察へといらっしゃった姉上と義兄上も、そう感じたと……我等だけでは、出来なかった事です」  此処で言葉を続けた紫電の表情が、縁には明るく見えたのだ。出会った頃より紫電の瞳の奥には、暗く寂しげな影があったから。其れが、美しい笑顔も何処か哀しげに見せて居て。僅かな変化だが、縁にはとても嬉しい変化。込み上げる何かに思わず涙が滲みそうになるも、泣く処では無かろう。咳払いで誤魔化して。
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