抗えぬ現実。

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「縁……」 「あっ……っ、ん……」  紫電の唇が縁の首筋を優しく吸い上げると、縁から漏れる艶めいた吐息混じりの声。其れが、紫電の耳を心地良く擽って。唇だけでは足らず、更に触れたくて紫電の手は縁の衣の帯を解く。衣擦れの音も、二人の吐息に掻き消されて。 「狡いのは縁ですよ」  縁の肌へ唇を落としながら、紫電からそんな言葉が。其れは、何処か恨めしげで。 「あっ……はぁ、ん……っ」  己が触れ口付ける度に聞こえる、欲を掻き立てる声と吐息。此の時ばかりは縁を己だけのものに出来ると、奇妙な高揚感を味わって居た。縁を愛し、触れて気付かされる。己の中にあった、けれど今迄知らなかった感情。 「私の中は、こんなにも貴方の事ばかりなのに……――」  溢れる独占欲に、更に湧き上がる熱情。激しく其れを縁へ向ける紫電を、縁も心のままに受け止める。何方もが恋しい思いに抗えず溺れ沈む、其の高揚を共に味わうのであった。  其れは、何れ程か。互いの熱を激しく煽り、奪い合った。満たされた身を寄せ合い、共に並ぶ床の中にて。 「――し、紫電……っ」  紫電の腕中で心地良さに暫しぼんやりとして居た縁が、何かに気が付いた様に声を上げた。そんな縁を抱いたままに、紫電も。 「どうさないました」  冷静に問う。温度差に開きがあるが、縁は染まる顔で紫電の顔を覗く。 「じゅ、襦袢で隠れぬ処は、ならぬと言うたろう……っ」  どうやら、営みの跡が絶妙な処に刻まれた様だ。恥じらう縁へ。 「此れは申し訳ありません。意識はしたのですが、余裕を失くしてしまった様です……」
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