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紫電のより素直な謝罪。困り顔の縁だが、勿論嫌なものでは無く喜ばしい証。しかし、どうにも気恥ずかしい。
「全く……出勤だと言うのに……」
悩む縁。訓練程では無いが、武器庫の管理役も知らぬ間に汗が出る程に体を動かす。隊員には隊服が与えられて居るのだが、此れはどの様な動きにも対応し着崩れしにくいと言う特殊な物。一方の縁は、質は勿論良いが単なる武道着。懸命に仕事をして居ると、どうしても着崩れてしまうのだ。勿論直ぐに整えるし、酷く乱れる訳では無い。が、今回の此の位置は本当に絶妙な位置だと。
そんな縁を腕に抱いたままの紫電は。
「そうでしたか……しかし、個人の状態に依っては急な欠勤も認められます。では、此の度はお休みとしてはどうでしょう」
等と提案。其の温度差へ、縁の胸に湧く疑念。
「紫電……わざとではあるまいな……?」
紫電は、焦る事も無く。
「はい。わざとでもあります」
「そ、そう淀みなく潔い声で答えられると、怒りも沸かぬな……」
怯む縁だが、紫電は抱える思いに深い息を吐きつつ縁を更に抱き締める。
「こうでもせねば、縁は全ての日に御出勤なさる。朝の鍛錬もそうですが、出勤が無ければ飛龍へ歌楽舞の指導も下さって居ります……体を休める日も必要です」
当初紫電が出勤の制限をしたのは、休暇も必要だと鑑みてだ。何でも全力で取り組む縁へ、出勤日を自由にしてしまえば毎日来るだろう。現に紫電は、出勤の時は違えど、全ての日数縁と現場で顔を合わせて居る。携わる武器庫管理役も、結構な体力勝負。夏は暑く、冬は寒い場所で重い武器を運ぶのは勿論、慎重な確認と手入れには神経も消耗する。其の上で、縁の日常。当然だが、のんびり休んで居る様な性分では無いのだから。
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