抗えぬ現実。

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「しかし、私の体調は何時も万全だぞ」  少し拗ねた様な表情でそう抗議する縁。だが、其の額へ優しく落とされた唇に固まった。 「疲労は知らぬ内に溜まるものです。過信は良くありません」  落とされた口付けの優しさと、少し厳しい声に縁は心が混乱する。依然、顔を赤らめ固まったままで。しかし、国軍の総司令でもある紫電へ言われると其れこそが正しいのだろうと。 「わ、分かった……休む……」  此れ迄皆勤であった事に若干未練はあるものの、紫電へ従う方向へ。其の言葉へ、紫電は微笑み縁を抱く腕に少し力を加える。 「何よりです――」  次に聞こえたのは、何とも優しい声。そして、嬉しそうにも聞こえた。縁は、其の声が何とも擽ったく、けれど心地良くて。此の声が聞けたのならばと、妙に納得させられた。だが、一方の紫電も複雑な思い。縁の身体を気遣う思いは勿論真。其れともう一つ、身勝手な思いも又。其れは、己の知らぬ縁を他の隊員が知る事への嫉妬。縁は、小さな籠におさまってはくれない。其れが紫電の泣き所で。互いに互いが其の言動に一喜一憂、惑わされ、惹きつけられて。だが、他が見れば何の事は無い甘ったるい戯れ。幸せな新婚夫夫の一幕なのであろうと。  しかし。幸せだけが日常に留まる訳では無い。冬も本腰を入れ出し、身を震わせる日が増え出した頃合い。桜花の元へ、隠密より不穏な情報が届いた。其の報告を受け桜花は、直ちに紫電と白雪を内密に御所へと呼び寄せたのであった。 「――叔母上、紫電。急な足労でした。顔を上げて下さい」  下にて拝する紫電と白雪へ、桜花が促す声。本日は、桜花の隣へ富士も控えて居た。徐ろに上がる二人の顔を確認するなり、桜花が切り出す。
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