抗えぬ現実。

9/17
前へ
/193ページ
次へ
 先を問う事へ躊躇いが出た紫電。桜花の答えは。 「まだ確証はありません。ですが、帰還命令最終日迄信じて待つつもりです」  不安は濃いが、答えは出ていない。どうか、命を持って帰って来て欲しいと。紫電も、其れ以上の声は上げず頭を下げる事で答えるに止めて。皆、暫し言葉が出なくなる。其れ程に、事態の深刻さと衝撃は強い。其れでも、白雪が徐ろに口を開いた。 「ならば、罪人の深雪送りは延期か……」  罪人の深雪送りとは、東にて存在する重犯罪人の刑罰の一つ。冬の盛りとなると、深雪の環境は一気に厳しくなる。其の深雪を郷とする者も、其の間は深雪を出て行く程なのだ。其れに伴い、罪人が其処での重労働を担う。命を繋ぐに与えられる慈悲は最低限、命尽きれば其処で刑は終えるが。故、場合に依っては極刑以上に苦しむ刑でもあるのだ。  しかし、其の疑念が確定した今不用意に深雪へ踏み込め無い。桜花も、其処は既に判断して居るが。 「ええ……ですが、深雪住民の移動が始まりますので……警護には、治安維持部隊の派遣を検討して居りますが……民が不安を覚えるやもと……」  民の確実な安全を考慮し、通常以上の厳戒態勢を取るべきかと。しかし、治安維持部隊出勤と言う事態を目の当たりに、民の心を不安にさせまいかとも。 「姉上。では、通常の刑事隊派遣に私が加わります」  紫電が、そう意見を出した。  「紫電、貴方……」  紫電を見詰めて、其の瞳に見える思いに桜花は複雑な表情。そんな桜花へ、紫電が続ける。 「屠龍が長なら、決して民達に危害は加えません」
/193ページ

最初のコメントを投稿しよう!

27人が本棚に入れています
本棚に追加