抗えぬ現実。

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 屠龍が武器を向けるのは、民では無いと。屠龍が憎むのは、屠龍の敵とは。其れは、紫電が一番よく知って居る。桜花も、紫電の意見へ共感する処もありながら。 「念の為、治安維持部隊からも数名の出動を。其れ以外は、貴方へ任せます」  桜花には、何より東の民の安全を優先させねばならない義務があるのだ。しかし、此の一件に関して紫電へ権限を預ける決断へ。桜花の心へ、紫電が拝をする。 「有り難う御座いまする――」  厳かに響いた声。其れは、覚悟の声でもあったのだった。  此の件は、勿論縁へも伝えられた。宮へと戻った紫電は、縁へと告げる。当然ながら其の事態へ、流石の縁も暫らく声すら出て来ず。しかし、紫電の瞳を見て居ると決意を示して居た。其の瞳へ、支える立場である己が不甲斐無いと縁も自身を叱咤して。 「――紫電。私も、深雪へ向かいたい」  等と、声に出して居た。紫電は驚き、勿論。 「な、何を仰います。流石に成りませぬ……!」  只の警護とは言え、やはり縁を連れ行く等と。しかし。 「危険は無いのだろう」  縁が強く問うた。 「其れ、は……いえっ、そう言う問題では無く――」 「私は、紫電の奥だ。民の警護と触れ合いに、隣に居ても妙な事は無い筈だ。其処へは、幼子も居るのだろう?」  確かにそうだ。況してや縁は、元西の帝。多くの教養や知識を持ち、武道の心得もある。更に奥となった縁の話題は、東でも大きな号外として各地へ触れられて居る。深雪の民との触れ合いを兼ね、姿を見せるのは決して不自然な形では無い。更に、民は何も知らない。深雪で此れより起こるやも知れぬ大事等。悩み、声に詰まる紫電へ。 「私も、屠龍殿を信じるぞ。私は、深雪の民へ御会いしに行くだけだ」
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