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笑顔でそう言う縁へ、紫電は肩を震わせる。縁が、深い呼吸と共に言葉を続けて。
「帝も、紫電と同じ思いを御持ちだ……紫電は、其れを知るから己が指揮を引き受けたのだろう」
僅かながら、己も嘗て最高機関として在った。桜花が最初に口にした判断も、痛い程に分かる。何よりも、民を優先しなければならない。其処へ私情は一切あってはならないのは当然。だが、治安維持部隊の派遣は、牽制となるが挑発に繋がる可能性もある。離れた隊員達の心を更に傷付け、裏切る事になるやも知れない。桜花の思いは、きっと紫電と同じくだ。嘗て其の精神を信じ、東の刀剣、盾として共に国を守らんと誓い合ったのだから。胸に湧く疑念。そして其れが確信に至った今、敵と認識せねばならないと言う現実。
縁の推察へ、紫電は答えない。もう其れが答えだろうが。
「紫電が何と言おうと、私は紫電の側に居るぞ。私の居るべきは、其処なのだからな」
「縁……っ!」
紫電は、堪らぬ思いに縁を強く引き寄せ抱き締めた。其の震える腕の中、縁は素直に身を預け背へ腕を回す。
「しかし、少々妬けるな……屠龍殿へは――」
そんな不満を溢しつつ、紫電の葛藤を受け止める縁。夫として恋い慕う紫電の為に、己も共に何でも超えてみせると、其の胸の奥で誓いを立てるのであった。
次の日。遂に紫電より治安維持部隊へ、此の大事が告げられた。流石の隊員達も、其の報告へは心を乱さずに居れなかった。しかし、薄々勘づいても居たのだろう、動揺よりも苦し気な表情を見せて力無く俯く者も。だが、決別し此処に残った時に覚悟して居た事。嘗ての仲間へ、敵として武器を向けねばならぬ日が来るやもと。
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