抗えぬ現実。

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 そんな中で、深雪の民による退避移住の日が迫る。縁も現地へ向かうと聞いた隊員達が案じて、護衛をと多くが声を上げた。しかし、治安維持部隊は今回『出動命令』は出ない。あくまでも、刑事隊の補佐として向かうとの事。隊員の数も極少数に止めねばならない。が、此処では通常の治安維持部隊らしい騒ぎが見られた。我が我がと声を上げ、更には隊員同士で其の役を取り合い、殴り合いへ発展。収集着かぬ其の様に紫電は頭を抱え呆れ、縁は余りの凄まじさへ此れが通常なのかと固まったり。結局収集は付かず、紫電による選出と他は籤引きと相成ったと云う。  深雪へ向かうには、都より更に北へ向かった端の村より海を渡らねばならない。日を跨ぎ、休息も要する旅。こんな遠出は、婚礼の為に西を旅立った日以来の縁。其の日は天気も比較的良く、船を出すに問題は無かった。とは言え、やはり東の北の地は都以上に寒さが厳しい。縁がやって来た初冬ならまだ、此処ももう少し暖かったろうが。西の地も海を渡らねば行けぬ地が存在するので、船旅は初ではない縁。しかし、縁には慣れぬ少々荒い波の中での旅であったが。 「――縁。具合は如何ですか?」  紫電の案じる声。船を降りるに、紫電へ寄り掛かる縁が居た。 「と、取り敢えず、何とか……」  揺れにそう弱い訳では無いが、流石に馬車や西の船旅とはかなり程度に差があったもので。 「奥方様。どうぞ、白湯です」  紫電の指名にて今回護衛に加えられた銀が、縁へ湯呑みを差し出す。何時も暑苦しい程に、元気な奥方の意外な一面へ他隊員等も案じる様子で。
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