国の為に。民の為に。

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 さて。事の始まりは、西に起こった悲劇。其の悲劇とは、抗えぬ天よりの試練。自然災害であった。  其の夏は、前代未聞の神風にもて余す程の雨が西を襲った。其れは、慈悲無き酷いもので。結果西にて、最も作物の生産量が多い地だと言うのも不幸であった。当然作物の実りは最悪、多くの物資の供給が追い付かなくなってしまったのだ。あらゆる物が値上がり、民の暮らしも困窮して行く。其処へ治安の悪化を招き、其れは最早都でも看過できぬ状態へ。遠い遠い歴史に記される、飢饉なるものが訪れたのだと国全体が息を飲んだ。  勿論、そんな中でも腐る者ばかりでは無い。一刻も早い復興と、物的流通を元に戻さねばと懸命に動く者が殆んどだ。西の帝も、直ちにの対策を。都、他被害の無い地より、困窮した地への支援を要請、自らも現地へ向かい民と共に働きて。だが、其処で見えた現実。此のままでは、多くの西の民が不幸になると危機感を募らせた。  緊急事態である。最早恥も外聞も捨て置き、隣国東へ此の事態を告げ支援を乞わねばならぬ。西の帝を乗せたのは、いつも雅やかな旅を演出する西伝統の牛車にあらず。今回は、馬車にすら乗らず自らが馬の手綱を握り、西の近衛隊を率い東へ馳せ参じた。事態は、其れ程に深刻であったのだろう。実の処此の時期、東も后妃の崩御、前帝崩御と立て続けに弔事に見舞われ。更には、若い皇女の即位式と慌ただしい状態が続いて居たのだ。故に、西の帝も此の事態への支援を先送りにした事情もあった。しかし、もう待てぬと。
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