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そんな鬼気迫る西の帝一向だが、突然の訪問にも関わらず、其の大事を察し快く東の御所の門を通される事に。此度は密談故西の帝のみが、東の御所にて国賓を招く部屋へと丁重に案内された。若き東の帝も、親子程も年の離れた西の帝自らがとあっては、急な訪問であれ応えねばなるまいと。東の帝が、部屋へと入った瞬間より手を付き拝をする西の帝の姿へ、東の帝は一瞬足の歩みを止めた程。しかし、再び進める足。東の帝も、静かに腰を下ろした。共に帝なる立場故、上は存在せぬ位置にて向かい合う二人。
東の帝は、西の帝との対談に合わせ、一等格式高い紋付き裃を纏う袴姿にて。因みに、一民等に許される最礼装は、羽織袴と定められて居る。しかし、帝、貴人等地位ある者等に羽織袴は略装ともなるのだ。一方の西の帝は、本日自らが馬の手綱を引いての参上。やむ無く、動きを重視した烏帽子に狩衣なる軽装と相成り。本来、此の位置に相応しき西の帝の姿は、垂纓冠を頂いた束帯姿で無くてはならぬ筈である。しかし、其れすらままならぬ程の装いが事態の深刻さをも現して居た。
「――どうか、御顔を上げて下さいませぬか……一世(いっせい)帝。貴方様の其の御姿を、若輩の私が眺める等あるまじき事」
聞こえた其の静かで嫋やかな声に、西の帝、一世はまだ顔を上げる事を躊躇うたのだが、徐に。一世の瞳に映るは、凛々しくも美しい成長を遂げた東の皇女――否。現東の帝なる桜花(オウカ)。だが、幼き頃に合い見えた時の繊細な柔らかさはなりを潜め、何処か闇の如く暗く冷たいものを感じた一世の胸に違和感も。
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