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「何とも痛ましい事です。此方も、心無い事は出来ませぬ故……其処は、御安心を」
期待に、一世の表情が一瞬明るく。
「で、では――」
「只。此処迄の規模へ十分な支援となると、上限を定めねばなりませぬ。私が第一に思わねばならぬのは東の民」
遮り釘を刺す様に出た言葉は、些か冷淡にも聞こえた。しかし、此ればかりは仕方あるまい。落胆が、膝元にある手を拳に変える。そんな一世は俯き。
「不甲斐無い問いには御座いますが……如何程に」
桜花は、暫し沈黙する。しかし、再び口を開き。
「そうですね……此方に記される最も酷い地への物資支援。月三つ分でしたらば」
「月、三つ……そ、そんなっ、流石に足りませぬ!」
月三つ。此の世の一日は、十二の獣で表す時が二度過ぎ一日。其れを三十日過ぎ月ひとつ。更に十二超えて年が過ぎ行く数え。であるからして、年をも跨げぬ程僅かであると。予想よりも、かなり下回る支援の内容に一世の表情が険しく変わる。確かに、東の民の暮らしへ酷い負担を強いる訳にはいくまい。だが、此度の野分に、東の国は殆んど影響が無かった事を一世も己の大使や隠密より報告があるのだ。
更に、東には最北方に位置する地で深雪(ミユキ)なる地が存在する。其処は、西には無い広大な地で、鉱山や質の良い土も豊富。故に、美味い作物が多く実るのだとか。其の地は東で都を差し置き、東の『心の臓』とも呼ばれる程に民の暮らしを支える、あらゆるものが揃う地なのだ。言うなら、此の地があるからこそ、古より東が世の先駆けと語られる所以とも。
知識あるからこそ、其処迄渋らずともとそんな思いが溢れ、一世の心は叫びそうにもなるが。
「しかし、其の地の区域全てを含めてのものです。支援隊の編成も勿論」
付け足された桜花の条件も、確かに大きなものだ。しかし、足らぬ。今の西は、其れだけでは足らぬのだ。再び額を擦り付ける一世。
「そ、其処を何とか!せめて、半年分はお願いできませぬか……!」
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