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せめて月六つ、此処迄は。当初、被害が深刻な地の三つ迄願いたい処であるが、思うより桜花の厳しい判断の中だ。後もう僅かでも慈悲をと。
しかし。
「東の民の心も汲まねばならぬのです。此方にも、野分の影響が無かった訳ではありませぬ。我が子を捨て置き、余所の子の腹を満たしてやる力迄は無いのです」
桜花も譲らぬ。だが、一世も額を付けたまま。民の為にも、此処で退けぬ。恥も、自尊心も何もかも捨てる勢い。
「御無理は承知!何卒!何卒、慈悲を……!」
強い懇願。一世の此の声と、額を付ける頭上を見詰めて居た桜花の瞳が一瞬鋭さを見せた。暫しの沈黙を与え、そして。
「西の帝。身を起して下さいませ……では、此の東の帝なる私が、西へ惜しみ無い支援を差し上げる建前を作って下さいますれば」
「た、建前とは……?!私で御用意出来るものならば、何でも……!」
希望の光が射すのか、そんな期待を胸に抱く一世の耳へ聞こえたのは。
「此処数代に渡り、東西での縁戚はありませぬ。故我が弟の妃に、そちらの縁(エニシ)皇子を頂きとう御座いまする」
飛んでもない条件。其の指名に、一世の表情も流石に強張る。
「なっ……御冗談を!縁は第一子にして、此の私の、唯一の世継ぎなのですぞ……!」
此の世では、男女別無く第一子が親の後を継ぐのが慣わし。そして、婚姻についてだが、様々な手段のひとつとして罷り通っている。勿論、互いに愛し愛され生活を守っていく誓いというのが基本ではあるが、其れ以外でもあるのだ。家の為に、財の為に、義の為に。故異性同性間問わず結ぶ事が可能となっている。但し、一度結べば離縁は困難を要する。不名誉は勿論、下手をすれば社会的地位をほぼ失う損害とも成りうる罰があるのだ。そう言った意味では、此処での結婚とは正に一世一代の決断、大博打と言っても良いだろう。況してや其れが皇族であるなら尚更。古よりの慣わしも、制度への誓いも一民とは比べものにならぬ程厳格に扱われる。
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