27人が本棚に入れています
本棚に追加
一世が声を上げるも、桜花は表情無く静かに口を開く。
「申し訳御座いませぬ。私には、既に后が在ります故……しかし、西の皇子を迎え義弟の祖国とあらば、私も支援を惜しむ訳には行きますまい。我が民や東皇家への示しも付きましょう。更に、其の際皇子の御身以外不要に御座いまする。此方で全てを」
表情無くも、声は強い。此れ以外の条件は無いと。苦渋の選択を迫られた一世は、再び拳のみならず、身をも震えさせる。縁は、側室無き一世にとって唯一の血を継ぐ子。先の西を託す為に、多くの教育、教養を身に付けさせた。更に、譲位の準備も進めて居る最中。そんな大切な我が子を帝の后ならまだしも、弟とは立場の開きさえ感じさせる。此れは、余りにもな条件。
だが、一世は支援物資と共に視察へ向かった地で、困窮する民達を目の当たりにした。腹が減ったと涙する痩せた幼子、其れを見て無力に震える親、心荒み非行に走る若人。家を失った者、家族を失った者。大切な存在を失った多くの哀しみと苦しみに、瞳の輝きも心も失いつつある西の民達。己は帝。民あっての地位、民が在らねば国は無いのだ。一世は、徐に震える身を起こす。
「っ……ならば、必ずや我が民を御救い下され。其れ迄に物資供給が断たれる事あらば此の私は、遺書を認め腹を斬りましょうぞ!縁へも、私へ続き自刃を命じて置きまする……!」
苦渋の決断を告げる一世の瞳に、強い覚悟を示す光を見た桜花。此処で、桜花も手を付き厳かに拝をする。
「其れは私にとって、一国を担う身としてもあってはならぬ事。必ずや、御約束を致しましょう――」
しかし、一方。支援要請の会談後帰還した一世を出迎えた西宮廷は、何とも重い空気に包まれたのだ。今回の東への支援要請について、帝一世が持ち帰った議題に当然会議がざわついたのは言う迄も無かろう。
「――え、縁皇子を差し出すと……そんな酷い条件が御座いましょうか!?」
最初のコメントを投稿しよう!