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「帝。其れは、余りにも心無き条件!西と東は、常対等に手を取り合うて此処迄来た筈ではありませぬか!歴史の中では、此方が支援を惜しまなかった事案も……!」
「斯様な不幸の最中に……桜花帝へ、心を感じませぬ……っ」
集う西皇家筆頭等は、動揺と共に憤りも見せて声を上げる。一世は、其々へ瞳を向け其の心を受け止めた。皆、表情険しく手元の笏を握る手も震えて居る。重い呼吸の後で。
「私も、苦渋の決断であった。彼方も彼方で事情があるのだろう……だが」
強く声を発し、手にある笏を強く握り締めて。
「何としても西を、西の民達を救いたい……我等が何よりも守るべきは、西の国を支えてくれる民達。そして、其の心だ。其の為ならば私は、命捨つる覚悟。西への支援に、東の不義理あらば腹を斬ろう」
決意を見せる瞳を前に、皇家筆頭等は涙を滲ませ苦し気な拝を捧げた。其の中で。
「帝。皇子へは……」
若い青年の声が静かに案じる声が。国防を司る当主の突然の逝去により、若くで筆頭へ就いた御影(ミカゲ)と名を持つ者だ。
一世は、其の問いへ一瞬声を詰まらせるも。
「本日、縁が視察より戻り次第話をするつもりだ。しかし、あれも何れ程緊迫した状況か分からぬでもあるまい。我が子として生まれたらば、縁も西の忠実な一の僕(しもべ)……私同様、此の西の為の覚悟はあろう」
静かに語られた一世の決断。御影は言葉が浮かばず、只答えを頂けた事への拝を捧げるのみで。其の頭上を見詰め頷いた後で、一世がある一人へ顔を向けた。
「篝(カガリ)……棗(ナツメ)へ此の西を託したい。其の様に」
微笑み、そう依頼する一世へ肩を震わせる篝なる者。西皇家筆頭の中でも一世との血の濃い家で、彼の妻は一世の妹でもあるのだ。棗とは、其の子である。幼い頃より共に在り、帝を慕い敬い、心より尽くして来た家臣の一人。白秋盛りの、皺が目立つ目元より涙を溢し。
「は、拝命致しまする……っ!」
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