「江口先輩の友達」

1/1
前へ
/22ページ
次へ

「江口先輩の友達」

 ガタガタ、と玄関から音がした。  誰か帰ってきたのだろうとは思っていたけれども、帰ってくる音がいつもと違う。そのうちにガタン、と大きな音がでたので、清水くんか江口先輩のどちらかが――もしかして何かあったのでは、と心配になって思わず部屋を出た。  玄関につくと、そこには――江口先輩と誰か……男の人が江口先輩の肩をかついで、玄関前に立っていた。 「飲みすぎだ、っつーか駿のせいで”お持ち帰り”できなかったじゃん」 「いいじゃん。どうせさぁ、あんまイイ子いなかったよ?」 「お前は――いっつもそれだから――」  そういって『江口先輩のお友達』はよいしょ、と先輩を廊下に下ろす。泥酔しているのか、江口先輩は崩れるように床に倒れ込んだ。私は思わず先輩に駆け寄る。   「江口先輩、どうしたんですか? お酒……飲んできたんですか?」  そうやって私が声をかけると、『江口先輩のお友達』は私を一瞥した。 「あれ、女の子がいる」といい、その表情が新しい玩具を見つけたような――、狂気を(はら)むそんな表情を浮かべ、(いや)な予感に少しだけ身を引いた。 「……江口先輩を送っていただいて、ありがとうございます。あとは私は対応しますから」  私のその言葉は無視して、その人は江口先輩を見やる。 「これって前にいってた5点の美奈ちゃん? どこがだよ、かわいいじゃん」  そういって、私の方へ進んでくる。  手が伸ばされた。値踏みしたままの視線、気味の悪い空気が手の先を包んでいるかのようで、私は再び一歩下がった。  が――遅かったようだ。あちらの手がそれより早く、私を(とら)えようとする。  間に合わない、と思った瞬間だった。 「ダメだよ、美奈ちゃんは変な事すると料理に毒を盛ってくるから」  江口先輩はそういって、私に手が届く直前で――『江口先輩のお友達』の手をガシリと取り押さえた。 「え、そういう系統の子なの? 怖っ。やめとこ」  表情を戻し私から距離を取って、江口先輩はそこでようやく腕を離した。  ――助けて、くれたのだろうか。 「美奈ちゃん、リビングから水とってきて、コイツにぶっかけていいよ。酔いが覚めるだろうし」 「うわ、引くわぁ。もう帰ろ」  そういって、その人は早々に玄関から去っていく。鍵をかけ、私は江口先輩に振り返った。 「二日酔いになりますよ? お水持ってきますね」  そしてキッチンから水を持ってくると、玄関先の廊下で江口先輩は座り込み、そして窓の外の月を見て――ぼんやりとしていた。    
/22ページ

最初のコメントを投稿しよう!

23人が本棚に入れています
本棚に追加