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「江口先輩の友達」
ガタガタ、と玄関から音がした。
誰か帰ってきたのだろうとは思っていたけれども、帰ってくる音がいつもと違う。そのうちにガタン、と大きな音がでたので、清水くんか江口先輩のどちらかが――もしかして何かあったのでは、と心配になって思わず部屋を出た。
玄関につくと、そこには――江口先輩と誰か……男の人が江口先輩の肩をかついで、玄関前に立っていた。
「飲みすぎだ、っつーか駿のせいで”お持ち帰り”できなかったじゃん」
「いいじゃん。どうせさぁ、あんまイイ子いなかったよ?」
「お前は――いっつもそれだから――」
そういって『江口先輩のお友達』はよいしょ、と先輩を廊下に下ろす。泥酔しているのか、江口先輩は崩れるように床に倒れ込んだ。私は思わず先輩に駆け寄る。
「江口先輩、どうしたんですか? お酒……飲んできたんですか?」
そうやって私が声をかけると、『江口先輩のお友達』は私を一瞥した。
「あれ、女の子がいる」といい、その表情が新しい玩具を見つけたような――、狂気を孕むそんな表情を浮かべ、厭な予感に少しだけ身を引いた。
「……江口先輩を送っていただいて、ありがとうございます。あとは私は対応しますから」
私のその言葉は無視して、その人は江口先輩を見やる。
「これって前にいってた5点の美奈ちゃん? どこがだよ、かわいいじゃん」
そういって、私の方へ進んでくる。
手が伸ばされた。値踏みしたままの視線、気味の悪い空気が手の先を包んでいるかのようで、私は再び一歩下がった。
が――遅かったようだ。あちらの手がそれより早く、私を捕えようとする。
間に合わない、と思った瞬間だった。
「ダメだよ、美奈ちゃんは変な事すると料理に毒を盛ってくるから」
江口先輩はそういって、私に手が届く直前で――『江口先輩のお友達』の手をガシリと取り押さえた。
「え、そういう系統の子なの? 怖っ。やめとこ」
表情を戻し私から距離を取って、江口先輩はそこでようやく腕を離した。
――助けて、くれたのだろうか。
「美奈ちゃん、リビングから水とってきて、コイツにぶっかけていいよ。酔いが覚めるだろうし」
「うわ、引くわぁ。もう帰ろ」
そういって、その人は早々に玄関から去っていく。鍵をかけ、私は江口先輩に振り返った。
「二日酔いになりますよ? お水持ってきますね」
そしてキッチンから水を持ってくると、玄関先の廊下で江口先輩は座り込み、そして窓の外の月を見て――ぼんやりとしていた。
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