3秒間だけ

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3秒間だけ

「ゴメン……聞いちゃいけないことを聞いちゃって」  そういって、私がひとしきり泣き止むまで黙って(そば)に居続けてくれた。泣きはらして、みっともない私にずっと。でも清水くんは、その間に一体何を考えていたのだろう。  さすがに申し訳なくなり、今度差し入れしますから、というと少しだけほほ笑んでくれた。   「……慣れ、ってすごいですよね。平気になってきました。清水くんと話せるようにも、もう目を会わせられるようにもなって――」  先日からそう感じていた。  もしかしたら、私はもう先輩とも話せるようになったんじゃ――。    「そう、なのかな?」 「はい。清水くんとは普通に話せるように、なったと思います」  清水くんは少しだけ笑うと何かを考え込んだ。私は清水くんの様子を伺う。 「……じゃあ今、俺の顔を見てみなよ。3秒間だけ」 「は、はい!?」  急展開に驚きを隠せない。  まさか当人にマジマジと見つめろといわれるとは思わなかった。   「そこまでいけたら、もう俺だけじゃなくてもさ、他の人も大丈夫だろうし」  それは確かに、そうかもしれないけど……。    でも……  いいや、少しだけ頑張ってみよう。息を整えて心の中で気合を入れる。 「いきますね」  心の中で秒数を数える。  清水くんの瞳の中に私が映り込んでいる、揺れる、そして何かをいいたげな瞳で。何を考えているのだろうかが、読めない。私は酷く胸が鼓動を打つし、顔もまるで林檎のように赤くなっているんだろうけど。  1,2,…… 「よし」 「見れました……!」 「大丈夫そうだね。それなら秒数上げてみる? 10秒とか……」 「い、いえ。これだけ見れれば十分かと」  これ以上見つめ合うとか、ジワリジワリとなぶり殺しにされてる感じがして気恥ずかしい。  「自信が持てました。これだけできれば――他の男の人も、それに先輩の顔ももう、見れそうな気がします」   「……そう、だったね」  清水くんは再び何かを考えこんでしまった。  そう、ここまでできるようになったら、次に進む必要がでてくる。 「私……先輩に言おうと思ってます。過去にフラれて、勝手に気まずくて態度が悪くて……ごめんなさい、って。もう今は好きじゃないので安心して欲しい、って――伝えようと、そう思っていて」 「別にいわなくても、いいんじゃないかな」 「でもなるべく早めにいわないと、後から気づいたときに気まずいですし……」 「ああ、それもそうか……」  この目の腫れが消えたら、いおう。でないと、いつまでたっても先延ばしにしたままになってしまうのだから。部屋を出ていこうとしたときに、清水くんは扉の前で一度立ち止まった。 「本当に、もう大丈夫? もう少しいようか?」  いつもよりも一段と優しい口調で、声をかけてくれて。  ――はい、大丈夫です。と軽く苦笑いするだけで精いっぱいだった。
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