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それは違います
「お腹すいた、あ……いいところにご飯が落ちてる」
江口先輩はさも当たり前のようにそういいながら私のところへやってきて、どこからか箸を取り出し――テーブルの上で冷ましていた作りたての生姜焼きをつまみ食いした。
「……落ちてはいないですよね?」
さすがに解せなくツッコミをすると、江口先輩は軽く笑う。「こっちの方はどうかな」とさらに追加で食べる。
「これちょっと塩が薄いなぁ」
しかも文句を!?
「食べた箸ではやめてください! それに、江口先輩のために作ったんじゃありません」
不満を露わにし、タッパーのふたを閉めた。
「え、もうダメなの?」
「好みが合わないようですし、別に食べていただかなくて結構です」
「じゃ、こっちで」
冷ましている他のタッパーにそのまま箸を突っ込もうとしたので、「ダメです」と取り上げる。
「え、どして」
どうしてもなにも。すべてツッコミどころがある。
「ダメといったらダメです。こちらは毒入りですので、食べれません」
「下手な嘘を。いいじゃん、もうちょっと食べたいんだけど? さっきの生姜焼きでもいいよ」
「……全部毒入りになりました、食べさせません」
「俺には冷たいね? ……やっぱり瑛太狙いじゃん」
「どうしても清水くん狙いだといいたいようですね……」
「だって、他の男はダメなのに瑛太の誘いはホイホイついていくじゃん。それに最近、あいつの付き合いが悪いんだよね。あんたのせいでさ」
「誤解を招く言い方はやめていただけませんか。最近の清水くんの付き合いについては知りませんが……とにかく、そんなにしょっちゅうは誘われてません。確かにこれから清水くんと課題をやりますが」
「……二人きりで? まさかあいつの部屋で?」
「それがどうかしましたか? 今までユキちゃんとやっていたのに、それができなくなりましたし」
それに今まで互いの部屋に何度もいったことはある。何を今更、というのが本音だ。
「……ふぅん。どういう風の吹き回しだろ。ところで美奈ちゃん」
「なんですか?」
「いくらあっちが手を出さないから、って襲わないようにね」
あり得ない、何をいっているのか、ふざけないで欲しい――という感情がない交ぜになって茫然としている私から――、江口先輩は満面の笑みで――生姜焼きのタッパーを丸ごと掻っ攫っていった。
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