31人が本棚に入れています
本棚に追加
「本当の」友達
フライパンに溶いた卵をサッと入れ、半熟の状態で取り出す。
「江口先輩、卵が足りないのでは? 4個食べたいだなんてワガママいうから……」
「だってさ、まるごと全部に卵がのってないとオムライスっぽくないし」
「その気持ちはわかりますが……あ、でも冷蔵庫の奥に予備が1パックありました。全然、大丈夫です」
そうして私は江口先輩のお皿にサッと卵をのせる。
「ケチャップをかければ、あとは食べて大丈夫ですよ」
「せっかくだからさ、一緒に食べようよ。その方が美味しいじゃん」
さも当たり前のように、そういったモテ言葉がいえる江口先輩は凄い……。これで過去の私含め、一体何人が殺されたのだろうか……。
そうこうしているうちに、私のオムライスも完成した。フライパンから卵を移し、席に着く。
「じゃ、早速食べようか」
そういって私たちが互いの席につくと、リビングの扉が開く音がした。みやると清水くんが目をこすり、よろよろと私たちの方へ歩み寄ってきた。
「あ、起きたんですね。オムライス余ってますけど、食べますか?」
私がそういうと、清水くんは小さく頷いた。江口先輩は後ろに立ち、私の目の前に新しいお皿を出してくれた。この皿に清水くん分をよそえということだろう。席を立って、用意をする。
「美奈、ちょっと瑛太のご飯少なくない? もっと食べるから盛っていいよ」
その言葉に私は頷くと、チキンライスを追加する。そして、卵を乗せ私の向かいの席に置いた。
「……え、美奈、って?」
清水くんはそういって私と江口先輩を交互に見ると、訝し気な表情を浮かべる。
「……どうして……、いつの間に呼び捨て? 大塚さんを」
「何度いっても、そう呼ぶので諦めました」
「別にいいじゃん。呼びたかったら瑛太も美奈っていえば?」
「本人がいいならそう呼ぶけど……」
そういって、私の方をチラリと見る。
それは、どう……返答すればいいのだろうか。
江口先輩はさんざん拒否しておいて、清水くんはあっさりと受け入れるなんて……、そんなことをしたら私の気持ちが明らかにバレてしまうのでは……。
清水くんは私の方へきて、正面の席に座った。
「……それに江口と揉めたくない。友達だし」
「認めるんだな? いや、それはいい。でも俺らは本当の友達だろ? それなら俺も、お前も――お互いに遠慮はいらない。それならどうだ?」
そういって、江口先輩は不敵に笑う。
黙り込んだままの清水くんはじっと――私を、見ている?
「瑛太、ちなみに俺はどんな卑怯な手段でも使うからさ。それでも恨みっ子なしで、よろしく」
江口先輩の含みを帯びたその言葉に、清水くんは「……そっか。江口らしくて、そっちの方が確かにいいかも」と、少しだけ嬉しそうに頷いた。
最初のコメントを投稿しよう!