間接キス①

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間接キス①

「振られてた、んだ?」  その清水くんの言葉に私は頷いた。  リビングでは話が聞かれてしまうため、私は、いや私たちは清水くんの部屋のソファーに座っていた。氷の入ったアイスティーをかき混ぜながら、ゴクリと飲むと机に置く。 「だから、苦手というより……気まずい、という感覚が近いかもしれません。向こうはたぶん、たくさんの人から告白されてたから、私のことなんてぜんぜん覚えてないと……思いますけど」  そこまで話して、清水くんは腕を組んで少し考えていた。 情けなくて涙が浮かびそうになったが、もうこれ以上は絶対に泣くものかと必死で堪える。 「……そういう事情があったなら、確かに気まずくもなるかもね」  そこまでいうと清水くんはアイスティーを持ち、くるくると氷をかき混ぜながらため息をついた。 「それ以降、ちょっと男性を直視できなくなりまして」 「ああ、なるほどね。ってことは……俺もか」  ゴクリと飲み、視線を思い切り外している私のことを、彼はどう思っているのだろうか。 「うん、事情はわかったから、いいよ。今後は挨拶程度でいいしさ。俺は俺でちゃんと自分で料理やるように頑張ってみる。無理をいって、本当にごめんね」  違う、違うのに。  やっぱり伝わっていない。  私は清水くんを、何より江口先輩そのものを拒否したいわけではない。  気遣う言葉は、かえって私の胸をえぐる。 「違うんです」  伝わらないもどかしさで、とうとう私は少しだけ声を荒げてしまった。 胸の奥からこみ上げる痺れる苦しさと、目頭の熱さをこらえ、ぎゅっと手の平を握った。 「お願いするのは、私の方です。慣れるように努力したいので……料理も一緒につくるので、協力、してもらえませんか」 「協力?」  ちらりと一瞬だけ、清水くんを見やる。 想定通り、怪訝な顔をしていた。目の前のグラスへ視線を戻す。 「いや、何かしてほしい、ってわけじゃないです。ただ、一緒に料理をしてくれれば。直視できないことで、困ってるから、そこを直したいだけです」 「……そのくらいなら、別に」  そこまでいって、私はあれ、と思った。  よくよく机に置かれたグラスを見れば、これは清水くんのものでは?  ……じゃあ、清水くんが今、手に持っているグラスは……もしかして。  間違いない、さっき私が使っていたヤツだ。 どうしよう、これ……申し出た方がいいのだろうか。  私の頭の中で大変な竜巻が、ハリケーンが、台風が吹きすさんでいる。
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