31人が本棚に入れています
本棚に追加
間接キス①
「振られてた、んだ?」
その清水くんの言葉に私は頷いた。
リビングでは話が聞かれてしまうため、私は、いや私たちは清水くんの部屋のソファーに座っていた。氷の入ったアイスティーをかき混ぜながら、ゴクリと飲むと机に置く。
「だから、苦手というより……気まずい、という感覚が近いかもしれません。向こうはたぶん、たくさんの人から告白されてたから、私のことなんてぜんぜん覚えてないと……思いますけど」
そこまで話して、清水くんは腕を組んで少し考えていた。
情けなくて涙が浮かびそうになったが、もうこれ以上は絶対に泣くものかと必死で堪える。
「……そういう事情があったなら、確かに気まずくもなるかもね」
そこまでいうと清水くんはアイスティーを持ち、くるくると氷をかき混ぜながらため息をついた。
「それ以降、ちょっと男性を直視できなくなりまして」
「ああ、なるほどね。ってことは……俺もか」
ゴクリと飲み、視線を思い切り外している私のことを、彼はどう思っているのだろうか。
「うん、事情はわかったから、いいよ。今後は挨拶程度でいいしさ。俺は俺でちゃんと自分で料理やるように頑張ってみる。無理をいって、本当にごめんね」
違う、違うのに。
やっぱり伝わっていない。
私は清水くんを、何より江口先輩そのものを拒否したいわけではない。
気遣う言葉は、かえって私の胸をえぐる。
「違うんです」
伝わらないもどかしさで、とうとう私は少しだけ声を荒げてしまった。
胸の奥からこみ上げる痺れる苦しさと、目頭の熱さをこらえ、ぎゅっと手の平を握った。
「お願いするのは、私の方です。慣れるように努力したいので……料理も一緒につくるので、協力、してもらえませんか」
「協力?」
ちらりと一瞬だけ、清水くんを見やる。
想定通り、怪訝な顔をしていた。目の前のグラスへ視線を戻す。
「いや、何かしてほしい、ってわけじゃないです。ただ、一緒に料理をしてくれれば。直視できないことで、困ってるから、そこを直したいだけです」
「……そのくらいなら、別に」
そこまでいって、私はあれ、と思った。
よくよく机に置かれたグラスを見れば、これは清水くんのものでは?
……じゃあ、清水くんが今、手に持っているグラスは……もしかして。
間違いない、さっき私が使っていたヤツだ。
どうしよう、これ……申し出た方がいいのだろうか。
私の頭の中で大変な竜巻が、ハリケーンが、台風が吹きすさんでいる。
最初のコメントを投稿しよう!