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第3話
「ア、アルトラ様っ! その……、この度のこと」
「ホーリー、顔を上げてくれ。別に怒ってはない」
「し、しかしっ。俺がちゃんと確認をしていれば……」
「ねぇ、ホーリーさん。紅茶に薬草を入れたって聞いたけど、どういうものだったの?」
セチアが二人の会話に口を挟む。
「セ、セチアさん!?」
ホーリーが驚いたように顔を上げ、彼女を見つめる。どうやら、セチアは彼の視界に入っていなかったようだ。
「おはよう、ホーリーさん。その紅茶に入れた薬草とやらを見せてもらえない?」
「お、おはようございます。それなんですが……」
彼が困ったように眉を下げて、言い淀む。不思議に思い、首を傾げるとコニーが口を開いた。
「消えちゃったのー」
「消えた……? 薬草が?」
「あ、いや。薬草というより花、でした」
「花?」
「そう、ぱっとお花が消えちゃったの! ふふふ」
コニーが楽しそうに飛び回る。精霊は見たものをそのまま口にするので、説明が雑だ。セチアは詳しい説明を求めるようにホーリーに視線を向ける。
彼の説明によると、こうらしい。
ホーリーがいつものように庭の手入れをしていた時に、気付いたら何故か森の中にいて、覚えのない変わった花を見つけたらしい。ふと、どこからともなく声が聞こえ、「飲み物にその花を混ぜると体に良い」と言ったそうだ。不思議な声が聞こえるのは日常茶飯事なので、その声にもいつものように反応せずに彼は仕事を続けた。だが、庭を後にする時に、どうしてだかその花が気になり、摘んで持って帰ってきたという。そのまま言われた通りに紅茶に混ぜたそうだ。それをアルトラとローザが飲み、今に至る。その花は気づけばいつの間にか跡形もなくなっていたらしい。
おそらく、精霊の力でホーリーは花を摘むように操られたのだろう。
セチアは話を聞き終え、尋ねた。
「その花は、どんな花だったの?」
「真っ赤な花です。花びらではなく、葉が赤いものでした」
「それって……」
「「ポインセチアだー!」」
コニーとライヒが口を揃えて言う。セチアが思い浮かんでいた花の名と同じだった。クリスマスの時期では、定番の花だ。
「つまり、ホーリーさんは花の精の声が聞こえたってこと?」
「花の精、だったんでしょうか?」
ホーリーは、すっかり落ち込んだ様子で俯いている。ポインセチアの精で、そのような人を操ってイタズラをする話は聞いたことがない。だが、他の精霊なら思い当たる節がある。
「そのポインセチアは、いたずら好きのプリンティーが持ってきたのかも」
「プリンティー?」
アルトラが首を傾げる。
実は最近、セチアは花の精霊以外の精霊についても密かに勉強をしていた。以前読んだ本に似たような現象が書かれていたことを思い出したのだ。
「本で、クリスマスの時期にいたずらをする精霊がいるって読んだことがあるの」
「そのプリンティーがホーリーに花を見つけさせたということか……」
五歳児がソファで腕を組んで、考え込んでいる姿は何だか面白い。言っていることは大人びた雰囲気があるのに、見た目が幼くなるだけでませた子供のようで可愛らしく見える。本人に言ったら、怒られそうだが――。
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