6人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ
第5話
セチアは顎に手をあて、少し考えてから微笑む。
「ライヒは、森の中でプリンティーを見かけた子がいないか探してくれる?」
「お安いご用! ローザ、行ってくるー」
「はい、お気をつけて」
ライヒは、ローザに頭を撫でてもらってから姿を消した。それから、セチアはホーリーの顔を覗き込む。
「私たちも探しに行きましょ。歩いた道を教えてくれるかしら、ホーリーさん」
「は、はい! 僕もお手伝いさせてください」
ホーリーは慌てて立ち上がるが、すぐにアルトラに呼び止められた。
「セチア」
「うん?」
小さくなった彼の手がセチアの手を握る。その手を握り返し、彼を見つめる。
「僕も一緒に行きたいところだが……」
「大丈夫よ、アルトラ様は仕事があるでしょ? 必ず、私があなたを元の姿に戻すから屋敷で待ってて」
彼に悟られないように、にっこりと微笑む。
本当は怖い。いつもは彼がそばにいれば、何でもできそうな気がするのだが、今回は一人だ。自分にちゃんと探し出せるのか、自信はない。でも、やるしかないのだ。ゆっくり目を閉じ、深呼吸してからもう一度彼を見る。彼は真っ直ぐにセチアを見つめていた。
「ありがとう、セチア。君ならできる。僕は信じてるよ」
そう言って、アルトラは優しく微笑む。そんな小さくなった彼をぎゅっと抱きしめ、ホーリーと共に部屋を出た。
玄関へ行くと執事のシャルがコートを手にして立っていた。
「セチア様、外は寒いのでこちらを」
「ありがとう、シャルさん」
「いえ、旦那様を早くお戻し出来るようにお願いいたします」
「もちろんよ」
セチアは力強く頷き、開かれた扉の外へ一歩踏み出す。
ホーリーの後について行きながら、改めて屋敷の庭を見渡す。辺りは様々な植物が咲き誇っている。花の甘い匂いや朝露に濡れた若い草の匂いなどがして、まるで庭が異世界のようだ。
屋敷から迷いなく、ホーリーは森の方へ目指して歩いていく。歩きながらもプリンティーの姿やポインセチアが咲いていないか、道中の茂みも隈無く探す。
森に入る手前でどこからともなく、コニーが姿を現した。
「セチア、見っけ!」
「コニー。どうだった?」
「いなかったー。赤いのも見かけたことないって」
「そう、ありがとうね。ホーリーさん、やはり森の中を手分けして、探すしかないみたい」
「そうですね」
丁度そのとき、ライヒも現れた。
「セチアー、なんか森の奥の方に不自然な空間があるって。そこだけ何か歪んでるんだって」
「ライヒ! それ、ほんと?」
「うん、長老が言ってた」
「長老って?」
「もしかして、樹齢五百年の木のことではないでしょうか?」
ライヒの言葉に、ホーリーが反応する。そんな木があるとは初耳だった。ホーリーが道や目印のようなものが書かれた紙をポケットから取り出した。
「それは?」
「これは俺が作った、この森の地図です。確かこの森の中心に一本の大樹があるんです。代々伯爵家と共にある木らしくて」
「そこに行ってみれば、何か他にも手がかりがあるかもしれないわね」
「ですね、行きましょう! こっちです」
地図を手に、ホーリーが先頭になって歩き出す。コニーとライヒも宙を舞いながら、ついてくる。
森に入ってからだいぶ時間が経ち、太陽が沈み始めて辺りが暗くなってきた。
「もう少しです」
ホーリーの言葉を聞きながら、茂みに目を凝らす。すると、急に道が広くなり、目の前に大きな大樹が現れた。
「あれです。樹齢五百年の」
「わぁ、とっても大きいのね……」
それは息を飲むほどに大きく、どこか神々しい雰囲気の大樹だった。ライヒが嬉しそうに大樹の幹にしがみつく。
最初のコメントを投稿しよう!