第5話

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第5話

 セチアは顎に手をあて、少し考えてから微笑む。 「ライヒは、森の中でプリンティーを見かけた子がいないか探してくれる?」 「お安いご用! ローザ、行ってくるー」 「はい、お気をつけて」  ライヒは、ローザに頭を撫でてもらってから姿を消した。それから、セチアはホーリーの顔を覗き込む。 「私たちも探しに行きましょ。歩いた道を教えてくれるかしら、ホーリーさん」 「は、はい! 僕もお手伝いさせてください」  ホーリーは慌てて立ち上がるが、すぐにアルトラに呼び止められた。 「セチア」 「うん?」  小さくなった彼の手がセチアの手を握る。その手を握り返し、彼を見つめる。 「僕も一緒に行きたいところだが……」 「大丈夫よ、アルトラ様は仕事があるでしょ? 必ず、私があなたを元の姿に戻すから屋敷で待ってて」  彼に悟られないように、にっこりと微笑む。  本当は怖い。いつもは彼がそばにいれば、何でもできそうな気がするのだが、今回は一人だ。自分にちゃんと探し出せるのか、自信はない。でも、やるしかないのだ。ゆっくり目を閉じ、深呼吸してからもう一度彼を見る。彼は真っ直ぐにセチアを見つめていた。 「ありがとう、セチア。君ならできる。僕は信じてるよ」  そう言って、アルトラは優しく微笑む。そんな小さくなった彼をぎゅっと抱きしめ、ホーリーと共に部屋を出た。  玄関へ行くと執事のシャルがコートを手にして立っていた。 「セチア様、外は寒いのでこちらを」 「ありがとう、シャルさん」 「いえ、旦那様を早くお戻し出来るようにお願いいたします」 「もちろんよ」  セチアは力強く頷き、開かれた扉の外へ一歩踏み出す。  ホーリーの後について行きながら、改めて屋敷の庭を見渡す。辺りは様々な植物が咲き誇っている。花の甘い匂いや朝露に濡れた若い草の匂いなどがして、まるで庭が異世界のようだ。  屋敷から迷いなく、ホーリーは森の方へ目指して歩いていく。歩きながらもプリンティーの姿やポインセチアが咲いていないか、道中の茂みも隈無く探す。  森に入る手前でどこからともなく、コニーが姿を現した。 「セチア、見っけ!」 「コニー。どうだった?」 「いなかったー。赤いのも見かけたことないって」 「そう、ありがとうね。ホーリーさん、やはり森の中を手分けして、探すしかないみたい」 「そうですね」  丁度そのとき、ライヒも現れた。 「セチアー、なんか森の奥の方に不自然な空間があるって。そこだけ何か歪んでるんだって」 「ライヒ! それ、ほんと?」 「うん、長老が言ってた」 「長老って?」 「もしかして、樹齢五百年の木のことではないでしょうか?」  ライヒの言葉に、ホーリーが反応する。そんな木があるとは初耳だった。ホーリーが道や目印のようなものが書かれた紙をポケットから取り出した。 「それは?」 「これは俺が作った、この森の地図です。確かこの森の中心に一本の大樹があるんです。代々伯爵家と共にある木らしくて」 「そこに行ってみれば、何か他にも手がかりがあるかもしれないわね」 「ですね、行きましょう! こっちです」  地図を手に、ホーリーが先頭になって歩き出す。コニーとライヒも宙を舞いながら、ついてくる。  森に入ってからだいぶ時間が経ち、太陽が沈み始めて辺りが暗くなってきた。 「もう少しです」  ホーリーの言葉を聞きながら、茂みに目を凝らす。すると、急に道が広くなり、目の前に大きな大樹が現れた。 「あれです。樹齢五百年の」 「わぁ、とっても大きいのね……」  それは息を飲むほどに大きく、どこか神々しい雰囲気の大樹だった。ライヒが嬉しそうに大樹の幹にしがみつく。
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