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第7話
「誰だ、私の庭園に勝手に踏み入る者は」
その声には少し怒気が含まれている。セチアはすぐにスカートの裾を摘まみ、深々と腰を曲げて挨拶をした。
「は、初めまして。私はセチアと言います。シクラーム伯爵に代わり、あなた様に会いに来ました」
セチアは直感した。恐らく、この声の主こそ自分達の探し求めていたモノではないかと。
状況から考えるに今、セチアは声の主の大事な庭園にいつの間にか入り込んでしまっていたのだろう。
「ふん。シクラーム家の者が何の用だ。幻覚から上手く逃れられたようだが、ここはそなたらが来ていいような所ではない」
「無断で立ち入ってしまい、申し訳ございません。気付いたら、この素敵な空間に迷い込んでおりまして」
セチアは怖がることなく、毅然と声がする空中へ顔を向ける。相手の姿は見えず、どこにいるのか分からない。だが、声だけは辺りに響き渡っていた。
しばらくの沈黙のあと、また声がする。
「そなたは、何が知りたいのだ」
心を読まれている。直感的にそう思ったセチアは、素直に答えた。相手に嘘は通じない。
「あの、ホワイトポインセチアが何処にあるか、ご存じないでしょうか」
「ほう、何故それを探している?」
相手は少し興味を持ったのか、棘のある声色から僅かに優しい声色に変わった。セチアは、何かを聞き出せるかもしれないと思い、話し始める。
「私の大切な人が赤いポインセチアを紅茶に煎じて飲んでしまい、幼い姿に変わってしまったのです」
また、しばし沈黙が訪れた。
「……ほう。それで、ホワイトポインセチアを探していると。そなたは、ホワイトポインセチアが何をもたらすのか、知っているのか?」
「相手の幸福を祈る花ですよね? 解毒剤としても、とても貴重な花だと」
セチアが答えると、空が急に眩しいほどに明るくなる。コニーがぎゅっとセチアの首に抱きつく。あまりの明るさにセチアも目を瞑る。光がだんだんと弱まり、目を再び開けると現れたのは、小さい透明な羽が生えた白く長い髪をした少女だった。コニーと同じくらいの大きさだ。
彼女の手には、ホワイトポインセチアが握られている。
「そなたにとって、その大切な人は幸福を願うほどの相手か?」
「はい」
セチアは、何の迷いもなく即答した。その返事に、相手は少し驚いた表情をする。
「彼は、どんな時でも私を探し出してくれて、温かい心で受け入れてくれるのです。そんな彼に、私は幸せでいてほしいといつも願っています。……いや、私が幸せにしたいと思っています」
「そうか。あんな風にいつかそなたを殺そうとするかもしれないぞ? それでも、大事な人だと言い切れるのか」
「ええ。彼は決して、あのようなことをするような人ではありません。とても意志の強い方で、私にとってかけがえのない人です」
「コニーもっ! アル、大事!!」
それまで黙っていたコニーも口を挟み、少女の周りを飛び回る。また花を降らせている。その姿を優しい眼差しで彼女は見つめ、やがてセチアに目を向けた。
「気に入った。そんなに真っ直ぐな愛を持っている者に会うのは久々だ」
少女は笑い、手にしていたホワイトポインセチアを宙に投げる。すぐに、コニーがそれを受け止めた。
「セチア、と言ったか。そなたにも幸あれ」
彼女が手を振り上げると、再び目が開けられなくなるほど辺りが眩しくなる。セチアは意識が遠のくを感じながら、目を閉じた。
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