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第8話
「セ……チ……、セチア!」
「セチアさんっ」
「「セチアー、起きてー!!」」
複数の声が自分の名を呼んでいる。その声に懐かしさを覚え、重い瞼をゆっくりと開ける。すると、見慣れた大切な人々の顔ぶれが並んでいた。心配そうな表情でアルトラが覗き込む。
「アルトラ……さ……ま?」
「セチアっ! 無事で良かった」
ほっとしたように彼は微笑み、手をしっかりと握られる。その姿は、五歳児の姿ではなく、元の大人の姿に戻っていた。どうやら、無事にホワイトポインセチアを届けられ、その効果が効いたようだ。
「セチア、だいじょーぶ?」
コニーがアルトラの肩越しに顔を覗かせた。セチアは答える代わりに微笑みながら、ゆっくりと首を縦に振る。
「よかったー」
コニーは、嬉しそうにクルクルとセチアの周りを飛び回った。その横では、ローザとライヒも安堵したような表情を浮かべている。ホーリーとシャルも互いに顔を見合わせて、手を握り、肩を抱き合っていた。
「ありがとう、僕の愛しのセチア」
アルトラがセチアの体を抱き起こす。
「アルトラ様、どうやって元に?」
「コニーとライヒが大樹の精霊にホワイトポインセチアの煎じ方を聞いてくれて、それをホーリーが作ってくれたんだ」
「そう……。元に戻ってよかった」
じわりと目頭が熱くなる。そんなセチアを彼は力強く抱き締めた。
「目が覚めて、本当に良かった。ホーリーに運ばれてきた君を見て、心臓が止まるかと思った。生きた心地がしなかったよ」
彼らの話によると、セチアが大樹の方へ歩み寄ったかと思ったら、突然姿を消したのでホーリーはとても慌てたそうだ。辺りをライヒと手分けして探していたら、暫くして気を失ったセチアとコニーが大樹の根元で横になっているのを見つけたらしい。コニーはすぐに目を覚ましたものの、セチアは呼びかけても反応がなく、ホーリーが急いで屋敷に運んでくれたのだとか。
「ご、ごめんなさい」
彼の胸に顔を埋め、小さく謝る。アルトラの温もりが伝わってきて、ほっとする。
悪い夢を見ていたような、いい夢を見ていたような、何だか記憶が曖昧だ。けれど、アルトラの規則正しい心臓の音を間近で聞き、これが現実であることだけは分かる。
そっと顔を上げ、大好きな彼を見つめた。
「おかえり、セチア。僕たちのために、探し出してくれてありがとう。コニーから聞いたよ。君の勇敢さには、いつまで経っても叶わないな」
「そ、そんなことは……。あなたが傍にいてくれるだけで、私は頑張れるんです」
愛おしそうに目を細める彼。失うことなくまた元に戻れて、セチア自身もほっとする。
「ねぇ、アルトラ様。ホワイトポインセチアの花言葉を知ってる?」
「んー、知らないな。何だい?」
「ふふふ、じゃあ内緒」
そう言って、彼の首に抱きつく。彼が嬉しそうにしっかりと抱きしめ返してくれる。
いつまでもあなたが笑顔で、幸せでいられますように……とそっと心の中で願いながら、大好きな匂いを胸一杯に吸い込む。
ふと、彼の肩越しに窓の方へ目を向けると、小さい透明な羽が見えた気がした――。
ホワイトポインセチアの花言葉
『あなたの幸福を祈る』
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