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青木の自宅は、職場から自転車で15分のところにあるワンルームマンションだった。
オートロックはついていないので、そのまま玄関の前まで行く。
「ピンポーン」
「はい」
インターホンを鳴らすと、聞き慣れた声が私の耳に届く。
「課長から聞いてるでしょ、開けて」
「は〜い」
だるそうな返事にイラッとしたが、ドアが開いて青木の顔を見た瞬間、それは驚きへと変わった。
「痩せた、顔がげっそりしてるよ」
「そりゃ何も食ってないからな」
「ちょっとは何か食べなさいよ」
「腹痛いから仕方ないだろ」
「ブラックコーヒー飲みすぎたんじゃないの」
「それは言うなよ」
私の発言に、青木はへこんだ。
図星かよって思いながらも、ストレートな発言に罪悪感が残る。
「ちょっとあがるね」
青木の許可なく、私は靴を脱ぎ、奥にある部屋へ向かう。
「勝手にあがるなよ」
背後から聞こえる青木の声を無視して、私は部屋に入った。
「空気が悪い、換気ぐらいしなさいよ」
私は窓を開けて、キッチンにある換気扇のスイッチをオンにした。
窓から心地良い風が入ってくる。
その時、コーヒーの香りがほのかにした。
「いい匂い」
「そうだろ、宮本の嫌いなコーヒーの匂いだよ」
無意識に言ってしまった私の言葉に、青木は食いつく。
「別にコーヒーが嫌いなわけじゃないよ、ブラックコーヒーが嫌なの、はいこれ、資料渡したからね、それとちょっとは何か食べなさいよ、何だかんだ言って病気治ってきてるんでしょう」
「そんなに怒らなくても」
「別に怒りたくて怒ってるわけじゃないよ、課長から青木の様子を見てきてほしいまで言われてるんだから」
「会社は明日から出勤するよ、さすがにまずいと思ってるから、これも今日中にはしとくよ」
「そしたら課長にはそう伝えとく、とりあえず何か食べなよ、お粥ぐらいなら作れるから」
そう言って私は冷蔵庫を開けた。
中を見ると梅干しが入っていたので、それを取り出す。
ご飯は、電子レンジでチンするとできるものがあったので、それでお粥を作ることにした。
「青木、鍋ある」
振り向くと、青木が口を開けてポカーンとこっちを見ている。
「自分の家なんだから座ったら」
「う、うん」
歯切れの悪い返事だったが、青木は鍋を出してくれた後、体育座りをしてお粥が運ばれてくるのを待っていた。
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