お茶派の私は、ブラックコーヒーが苦手だった

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3時の休憩、私はいつも通りに給湯コーナーで肩の荷を降ろす。 そこに青木がやってきた。 「宮本、朝礼の時お前笑ってたよな」 「ぷっ」 私は笑ってしまった ムスッとした顔で言われると、さらにおかしくなる。 「笑ってんじゃないよ」 「だっておかしいじゃない、そんなムスッとした顔見ると」 「あっ、外見ひやかされた」 「ごめんごめん、そうだコーヒー飲む」 「なんでお前がコーヒーなの、お茶じゃないの」 「言ったでしょ、コーヒー嫌いじゃないって、ブラックコーヒーは苦手だけどね」 青木の表情が芳しくない。 私は話を続ける。 「だけど挑戦してみたくなったの、チョコレートと一緒に食べたら美味しいのかなと思って」 そう言っても、青木の表情は芳しくなかった。 「お茶飲みたかった」 私は青木の顔色を伺いながら、そう問いかける。 「俺、今日お茶持ってきたから一緒に飲もうと思ってたのに」 「ぷっ」 私は驚きのあまり、思わず笑ってしまった。 「また笑ったな」 「まさか青木がお茶持ってくるなんて思わなかったから」 「俺だってお茶飲むよ、さすがにご飯食べながらコーヒーは飲まないからな」 「今回はそれをして、お腹を壊したんでしょ」 「もうしないから許して下さい」 反省しながらも、笑顔を見せる青木を見て、私はホッとした。 なぜだか分からない。 だけど、そんな感情に浸っている自分がいた。 「ねぇ青木」 「なに」 「コーヒーの木の花言葉知ってる」 「そんなの知らないよ、てっ言うか、コーヒーに花言葉なんてあるの」 「あるわよ、一緒に休みましょう、今のあなたにぴったりの花言葉かな、はいどうぞ、砂糖、ミルクは入ってないよ」 そう言って私は、ブラックコーヒーをコップに入れて、青木に渡す。 「お前からコーヒーもらうとは思わなかったよ、それじゃ俺からお茶あげるよ」 そう言って青木は、お茶をコップに入れて、私にくれた。 「ありがとう、あなたからお茶をもらうとは思わなかったわ」 私がそう言うと、青木は照れくさそうに「乾杯」と言ってくれた。 私は、青木が入れてくれたお茶をゆっくりと味わって飲む。 青木は、私が入れたブラックコーヒーを飲んでいる。 飲んでいるものはいつもと変わりないが、何か新鮮味を感じていた。 「なぁ宮本」 「何?」 突然、青木に呼びかけられ、私は戸惑う。 「昨日はありがとう、あのお粥は美味しかったよ」 「いいよ別に、言っとくけどレンジでチンして、水とご飯を一対一で鍋で煮込んだだけだから」 「いや、気持ちの問題だろ、本当に嬉しかったんだから、できれば何かお礼したいんだけど」 「お礼って」 「今度一緒に食事でも行かないか」 青木からそう言われ、私はドキッとする。 「それ誘われてる?」 私はストレートに聞き返した。 まわりくどい事を言っても仕方がないと思ったからだ。 「誘ったら駄目かな」 そう答えてくる青木の顔は真剣だった。 緊張感が伝わってくる。 それは、私にとって喜ばしいものだった。 「ねぇ青木、お茶の花言葉も教えるね」 「何なの?」 「追憶(ついおく)、過ぎた時間に思いを馳せること、ここでの会話やお粥を作った時がそうなるかな、後もう一つあるの」 「何?」 「純愛」 そう言って、私自身が恥ずかしくなる。 青木は口を開いたまま何も答えてくれない。 「何か答えてよ、私が告白してるみたいじゃない」 「ごめん、けどありがとう、オッケーでいいんだよな」 「よろしくお願いします、て言うかこんなところで告白する」 「告白じゃないよ、まずは誘ってるだけだよ」 「じゃ次は期待していい?」 「了解しました」 そう言いながら、青木は私に向かって敬礼をする。 私は笑ってしまった。 つられて青木も笑う。 ふと時計を見ると3時15分になっていた。 「やばい、早く事務所に戻らなきゃ」 私はテーブルに置いてあるものを片付けて、席を立つ。 「一緒に行こう」 「はい」 青木の問いかけに、私は素直に答え、一緒に事務所へ戻った。 その時、ふと思った。 『チョコレートを食べながら、ブラックコーヒーを飲んでいない』 この想いは、彼と一緒に食事をする時までとっておこう。 そう思う私だった。
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