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 より激しい揉み合いがはじまった、その刹那。  あっと思ったときには、ナビカの黒い外衣は裂けて脱げていた。  続けて、ジクサの黒いマントがばさりと落ちた。  ふたりして無頼な王族だから、内側にまでは黒い衣類を着ていなかった。ナビカは純白の夜着、ジクサはアイボリーの上衣に暗いベージュの下衣。  ジクサの黒い帽子もベルトも手袋も、入浴時も手離すことを許されなかったナビカの黒い宝飾品も、ふたりの黒い履き物も、いつの間にか肌身を離れてどこかに消えている。  ふたりは顔を見合わせる。この数日間で、もっとも心を通い合わせられた瞬間だったにちがいない。 「大丈夫……よね? 封印なんて解かれない、わよね? 伝説は、伝説だもの……」  ぶつぶつ言いながら外衣を拾おうと屈みこんだ、そのとき。  ドドドド……と鈍く地を震わせるような音が、どこからか響いてきた。 「なに……?」  見まわせば、王宮のほうからなにか小さな動物が走ってくるようだった。次第に近づいてくるそれは黒く、人の頭ほどの大きさしかない。しかし脚力は高く、牛か馬のごとく四肢を繰りながら猛進してくる。  それは泉の近くにまでたどり着くと、ジクサの命綱を引きちぎりナビカともども撥ね飛ばし、ふたりまとめてまっ逆さまに水に沈めてもなお脚を緩めることなく、水面をトトトトと走り続ける。  走って、走り続けて、ハウィーシは森を抜け、町を抜け、山を越え、川を渡り、それを繰り返しながら、やがて島の中央にたどり着いた。  ハウィーシはそして、輝く黒い湖面のかなたに、何百年ぶりに再会する兄弟の確かな存在を感じた。  最後の力を振り絞って四本の脚を駆り、広く暗い水面をトトトトと走っていく。そうして湖面の真ん中で懐かしい兄弟と抱き合い、すると一挙に黒雲と黒波が立ち込めて島全体を覆い尽くし、炎熱と砂塵がそこかしこで吹き荒れて街も森も王宮もなぎ払い、歓喜の中でひとつになったハウィーシたちはただ、真っ黒な湖底へと沈んでいくのだった。
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