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「ええ、分かっていますとも。不届きな真似をして申し訳ありません。しかし、私はお父上に正当にお招きにあずかった、王宮の逗留客なのですよ」  ナビカは少年をじっと見る。正当に招待している客ということは、先ほどナビカも顔を合わせた隣国マルダク王の、お付きの者でもあろうか。ジュスタとマルダクとは何年ものあいだ関係が冷えていたが、ここ最近、懇意なつき合いを再開しつつある。  訝りまなざしを受け、少年は軽く頷きつつも口を開く。 「申し遅れました。私こそ、マルダク王ジクサ。昨年、亡き父に代わって王位を継いだのです」  そう聞いて、一瞬の間ののちナビカは笑い出した。 「マルダク王ですって? 戴冠式でお目にかかったのも、昨日昼餐や晩餐をご一緒したのも、あなたとは似ても似つかない御方だったわ。多少見目が良いからって、従者が王のふりして遊んでるとは、傑作ね」 「貴女が見た“マルダク王”は、私の叔父です。表面上は、彼が王として振る舞うことになっている。今回の逗留にも私は同行こそ許されましたが、王として表に出ることはありません。私は、忌まれ秘められた王なのですよ」  そう言うと、少年は肩を覆う黒いマントの布を後ろに跳ね上げた。と、月に照らされ襟元にあらわれたのは紛れもない、マルダク王の直系のみに許された紋章に他ならない。不勉強なナビカでも、教師に教わったのをよく覚えていた。 「ほんとうの話なの……?」 「ええ。ほんとうですとも。だからどうか、このことは御内密に」  ジクサはマントを元に直し、神妙に言った。
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