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「マルダクでは王に子が生まれると、出生時の海の色を『守り色』と定め、その子女の人生を終生縛らせる習わしがあるのです。そして――私の色は黒だった。十六年前のその日、この島はなにもかもが黒一色に覆われていたのでしたから」
ナビカは両手で口を覆った。
「同じだわ……なにもかも、わたしと」
ジクサが悲しげに頷くと、ナビカは震える声で言った。
「わたしたちも、この二国も、こんなに似ていたのね。知らなかったわ」
「そうです。姉と弟のような、兄と妹のような二国だと言われている。姫君であれば、隣国の事情くらい教師に教わるのではありませんか?」
「わたし……勉強は大嫌いなの」
ジクサは苦笑してから、真顔に戻って続ける。
「しかし、黒という色ほどマルダクで忌み嫌われるものはなかったのです。グレーや藍で誤魔化さず、私の色を黒にすると決断した王や宰相、占術師らの予測をはるかに超え、私は王宮の者たちにも、人民にも忌み嫌われることとなった。挙げ句、実の父たる王自身からさえ忌まれ、奴隷然と扱われる始末」
そう言って黒革の手袋を外したジクサの手には、表にも裏にも深い傷痕が走っている。それは月の光のもと、てらてらと不気味に光った。ナビカは思わず、その傷に指先で触れた。
「……あなたのこの傷には、とうてい及ばないけれど」
悲痛な声で、ナビカは語り出す。
「わたしはいつも、石を投げられてきたわ。比喩じゃなしに、ほんとうに投げられるのよ。兄や姉たちにも、侍女や侍従にも、人民の前に顔を出すときには彼らにだって。ひとつひとつは小さな石でも、おびただしく投げられれば頭はおかしくなるわ。わたしはもう、とっくにおかしくなってた。でも、すべてを圧し殺して生きてきた。父も母も知っていて、助けてはくれなかった……」
震え出したナビカをジクサは軽く引き寄せ、マントの黒と外衣の黒は境界を失いながら、闇の中に溶けていく。
「私たちは、よく似ていますね?」
間近で言われて頬が熱くなるのを感じ、ナビカはその厚い胸を押し返す。
「よく似ているという割には、なんでそんなに慣れた感じなのかしら?」
「慣れているとは?」
「なんでもないわ」
ジクサがくすりと笑うのが聞こえた。
「二、三日もすれば、我々は国へ帰ります。あすの晩また、ここで会ってくださいますか?」
少しの迷いも差し挟まず、ナビカは頷いていた。
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