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 翌日の晩は、マルダク一行が帰国する前夜でもある。  約束通りナビカは王宮を抜け出し、泉の近くに駆けつけた。この夜は、ジクサのほうが遅れてきた。ナビカは思わず抱きつこうとして、しかし自重した。 「こちらが……マルダク国のハウィーシです」  ジクサが手元の包みを解き、光り輝く黒い霊石の塊を取り出す。緊張した微笑を浮かべ、問いかけてくる。 「貴女のも、どうぞ」  ナビカは手元の包みを抱きすくめ、一歩後退した。 「取り出すのが……こわいわ。だって、あなたのものと近づけたら、一気に島は壊れてしまうのでしょう?」 「壊すため、私たちはこれを持ち寄り合ったのではありませんか」  ジクサは肩をすくめる。 「やはりこんなばかげたこと、止しておきましょうか」 「……いいえ!」  ナビカが叫びながら顔を上げ、大きく一歩を踏み出したそのとき―――ゴッッと鈍い音がした。  ジクサが身体のバランスを大きく崩し、驚愕に目を見開きながら泉のふちでよろめく。そのまま、ハウィーシごと黒い泉に飲み込まれていった。 「やったわ……」  王宮から持ち出したブロンズ像を握りしめ、ナビカは暗く笑う。  やっぱりわたしは、こうでなくちゃ。裏切りこそわたしの友人、残酷こそわたしの居場所。  マルダクのハウィーシごと沈んでしまったけれど、まあよい。伝説などはなから信じていないし、わが国のハウィーシがあればそれでよい。
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