2人が本棚に入れています
本棚に追加
4
翌日の晩は、マルダク一行が帰国する前夜でもある。
約束通りナビカは王宮を抜け出し、泉の近くに駆けつけた。この夜は、ジクサのほうが遅れてきた。ナビカは思わず抱きつこうとして、しかし自重した。
「こちらが……マルダク国のハウィーシです」
ジクサが手元の包みを解き、光り輝く黒い霊石の塊を取り出す。緊張した微笑を浮かべ、問いかけてくる。
「貴女のも、どうぞ」
ナビカは手元の包みを抱きすくめ、一歩後退した。
「取り出すのが……こわいわ。だって、あなたのものと近づけたら、一気に島は壊れてしまうのでしょう?」
「壊すため、私たちはこれを持ち寄り合ったのではありませんか」
ジクサは肩をすくめる。
「やはりこんなばかげたこと、止しておきましょうか」
「……いいえ!」
ナビカが叫びながら顔を上げ、大きく一歩を踏み出したそのとき―――ゴッッと鈍い音がした。
ジクサが身体のバランスを大きく崩し、驚愕に目を見開きながら泉のふちでよろめく。そのまま、ハウィーシごと黒い泉に飲み込まれていった。
「やったわ……」
王宮から持ち出したブロンズ像を握りしめ、ナビカは暗く笑う。
やっぱりわたしは、こうでなくちゃ。裏切りこそわたしの友人、残酷こそわたしの居場所。
マルダクのハウィーシごと沈んでしまったけれど、まあよい。伝説などはなから信じていないし、わが国のハウィーシがあればそれでよい。
最初のコメントを投稿しよう!