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 ジュスタ国王ディリアの四女、ナビカは「黒姫」と呼ばれる。出生のその瞬間の空の色が、真昼にも関わらず真っ黒だったからだ。  出生時の空の色によってその王族の衣類や装身具、調度の色までを定める習わしのあるこのジュスタにおいて、生まれてこの方黒一色に包まれて過ごすことを余儀なくされた彼女がそう呼ばれ出したのも、やむないことであった。  歴代の王族において、夜空の藍色や雨天の灰色をまとう者は当たり前に存在してきた。しかし、黒というのはジュスタの歴史を振り返ってもナビカ一人である。つまりは、例を見ないほどの荒天の日に生まれた姫君ということになる。  当時の占術師が、「国を滅ぼす相が出ている」などと告げたのは言うまでもない。けれども、十六になるこの年までそのような兆しは見せることなく、美しく成長してきたナビカなのだった。
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