第1話 私のお仕事

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「かあさま、げんきになった?」  リッカルドさまが、手に持っていた積み木を床に置いてそう問いかけてくる。  その目が本当に心配そうで、胸がぎゅっと締め付けられた。だって、この頃の子供って、多分親とたくさん遊びたいんだと思うもの。それなのに、不満じゃなくて心配なんて……。 「リッカルドさまのそのお言葉は、お母さまも嬉しく思ってくださいますよ」 「ほんとう?」 「えぇ、とってもお優しいお人ですもの」  奥さまであるリスター伯爵夫人は、とてもお優しいお人。そして、とても芯のあるお人だ。  今は体調が本当に優れなくて寝込んでいらっしゃることも本当に多い。看病をしていると、奥さまはずっとリッカルドさまの心配ばかり。  ……やっぱり、負い目があるのかもしれない。 「いいおにいちゃんに、なるんだ」 「……そう、ですね」  奥さまのお腹の中には、今、第二子がいらっしゃる。奥さまはつわりが重いタイプらしく、リッカルドさまのときも安定期に入るまでずっと苦しんでいらっしゃった。  旦那さまはそんな奥さまに時間があれば付き添っていらっしゃる。本当、仲のよろしいご夫婦だなぁって。 「おれね、おとうとでも、いもうとでも。ちゃんと、めんどうみる」 「はい」 「いっしょにあそぶの」  嬉しそうに笑うリッカルドさまは、弟妹が出来ることを純粋に喜んでいらっしゃるみたい。  ……私は、ちょっと気が気じゃないのだけれど。 (奥さま、出産の際もとっても苦労されていたもの……)  私は専属侍女として奥さまの出産に立ち会ったのだけれど、それはもう壮絶な状態だった。  旦那さまが雇われた女医さんと、私と双子の妹のマリン。あとは数名の侍女。  かなり時間のかかった出産で、誰もがふらふらな中。リッカルドさまは、お生まれになった。  そのときのお屋敷の状態は、もうなんだろうか。……一生、忘れないと思う。 (まさに混沌だったものね……)  何処か遠い目をしつつ、そんなことを思い出す。  そうしていれば、お部屋の扉が開いて、乳母が顔を見せてくれた。 「すみません、クレアさん。お仕事を代わっていただいて……」 「いえ、構いませんよ。では、リッカルドさま。また、あとで」  立ち上がって、乳母と交代。リッカルドさまは、私のほうを見て手をひらひらと振っていらっしゃった。  ……可愛くて、たまらない。 (あぁ、リッカルドさまはまさに天使だわ!)  リッカルドさまを見ていると、もう本当に疲れなんてどこへやら。  もっと頑張ろうって、思える。私にとっての、エネルギー源だ。
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