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「あっ、やっぱりクレアさんだ」
男性は私のほうに足早に近づいてくる。
彼はきつそうな顔立ちをしているけれど、いつも表情がにこやかなので特別恐怖を感じることはない。
それに、彼はいつだって物腰柔らかで丁寧。私は、それを知っている。
「アルロイさん。……こんにちは」
一応とばかりに挨拶をすれば、彼――アルロイさんは、くしゃっと表情を崩した。
何処か子供っぽく見えるその表情に、私の胸がむずむずとする。……なんだろう。弟分、みたいに思えるのかも。
「はい、こんにちは。……ところで、なにか御用ですか?」
ニコニコと笑ってそう問いかけられて、私は頷く。
アルロイ・ビヴァリー。彼は最近リスター伯爵家にやって来た新人の庭師。年齢は二十一歳。
短く切りそろえられた漆黒色の髪の毛。鋭い茶色の目。肌は少し日に焼けていて、背丈は高くて体格はがっしりとしている。
こういうのを……そう、野性的。そういう風に言うんだと思う。
そんな彼は、どうしてか私によく声をかけてくれるのだ。
「はい。奥さまからの意向をお伝えに来たのですが……みなさま、出払っているようで」
アルロイさんは庭師だけれど、見習い。
だから、あんまり詳しいことは知らないはず。
まぁ、奥さまがガーデニングを趣味にしていらっしゃること。その奥さまがつわりで寝台から動けないことくらいは、耳に入っているだろうけれど。
「そうなんですか。……じゃあ、俺が伝えておきますよ。それとも、スペースの確認もします?」
表情を崩さずに、アルロイさんはなんてことない風にそう言う。……話が早くて、ちょっと驚き。
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