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 知己に呼ばれた。  こんな時になんだよとは思ったが、それをぶつけるわけもなく。 「ジム? お前運動とか熱心だったか」 「まあね。今はランニングしてる」  ふうん、と首を捻った。マシンが見当たらないな、と思ったらすぐ傍にある自販機みたいなでかい箱がそうらしい。  走行距離に応じて、周囲に映る映像が変わっていくとか。  普通に走ればいいだろう、とは思ったが、そもそも地球の気候でそれができる場所も限られている。 「仮想空間を走るわけだから、現実では見られない景色がたくさんあるんだ」 「それは面白そうだな」  ローグの貧困な想像力では、虚構の景色と言われて思い浮かぶものがあまりなかったけれど。やってみるかと言われて別にいいと断るのも違う気がした。  あまり走らないんだけど。  歩くだけでいいだろ、そういうもんだ。  変な押し問答。昔からこういう奴だったなと諦めて、ボックスに入った。  ルートを選ぶ画面で選択肢が無数にあるのに参ってしまって、ランダムを押したのは仕方ないことだったろう。 「六桁は冗談だろ」  圧倒される。バリエーション数というか、そこまで集めてしまう、そして作り出してしまう人の執念に恐ろしさを覚えた。  創造者の執念、か。  祖父やラツィリにも、そういうものはあるのだろうか。  自分自身と違うものに対する憧憬はあったけれど、彼らにもそんな恐ろしい部分があるのか、と思った。  考え込んでしまい、足は進まない。  その内に考えるのに飽きて、景色が綺麗だなーと呆けたことを考える。  楽天的で、同時に愚かしい。  分かっていてもそんなものだった。 「…………。なんで最後には全力疾走だったんだ?」 「いや、その、なんとなく」  息も絶え絶えに応える。そういう気分になったから、という本当に「なんとなく」としか言いようのない理由だった。  結局何を考えて項垂れていたのか、わからなくなっていた。 「そう言えば、なんでここに俺を呼んだんだ?」 「いや、これが面白かったから、共有しておきたいなーって」  そういう所、本当に変わらない。楽しいから、それを分けてくれるこの友人が鬱陶しくて好きな奴だと日頃から感じていた。  骨身に沁みるくらい。 「ローグの近くに女の子いたけど、知り合い?」 「知り合ったから、そうだろうな」  そっち興味あったのか、と訊いたら。  普段と違うことしてれば気にするよ。と返ってきた。 「詐欺でもされてんじゃねえのかなと心配でさ」 「ありがたい心配だなあ。そういうんじゃないから大丈夫だよ」
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