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「あはははは! 詐欺を疑われるってそういう風に見られてんの、君⁉」  ここまで無神経に笑い飛ばされると、こっちまでどうでもよくなってしまう。  幸いにも美人局のような被害には遭ったことがない。だからこそ余計に勘繰られたってだけなのだけれど。  帰ってきた時のラツィリの汚れた姿を見ていると、ほんとそんなのありえないよと本心から思える。作業している時が一番楽しそうなのだから、それ以上何も言えない。  埃やら油で汚れた顔を拭って、一息ついたところで笑われていたところだ。 「部品が足りなくて、どこに行ったのかな、って探してたんだ」 「墜ちたところで回収し忘れてんじゃないか?」 「そうかも。明日にでも、もう一度行こうかな」  一人で行くのか、に対して、手伝ってくれるんだよね? と戻される。  まあそういうことだが、自分でもやりたいことがあったから、それをどこかにズラすしかなかった。  しゅううー……、と掠れたいびきみたいな音が聞こえた。  音の方向に目を向ける、窓の方だったが何もいない。なんだったんだろう、と考えてもわかるわけもなく、ときおり窓に映る綿毛の暢気さが少し苛立たしい。 「って、あれ?」  足元に見たことのない猫がいる。  こちらをじっと見上げてみたり、足の匂いを嗅いでいるような動きを見せていたが。  野良猫なんてこの一帯ではほとんど見ないのに、どうして――― 「ああ、それ。手すさびに組んでみたんだ」  なんてラツィリが言っていた。組んだ、というのはパーツの組み合わせのことだとはすぐに察せるけれど。 「中身が木枠なんだよ。太めの芯材としなりの強い枠材をね、組み合わせて、その上から毛皮風の布を貼り付けて、ってやってる」  張り子のからくり人形、知ってる?  そう訊かれても、どうだろうとしか答えられなかった。 「動きを読み込んだCPUとバッテリを頭部において、骨格を再現して動かしてる。結局元の形をそのまま真似るのが最適だからさ」  フェルトとか、ぬいぐるみ用の生地にしてもよかったかなあと考え込んでいる。  面白くてたまらない、そんな色が目の奥に滲んでいるのが見えた。 (うらやましいよ、そういうの)  後ろを向いて、聞こえないように呟いた。  生きることに精一杯だから、とも言いがたい。もっと質の違う溝があるような気がした。  鳴き声を上げることはなく。  何故かローグが眠っているところに潜り込んでくるように設定されているらしい。  実際の猫を飼ったことはないから、それがリアルなのかどうかは知らないままだ。
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