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 今日も抜けるような快晴だ、陽が強く差すのは結構だが。  よく耳を澄ませてみれば、街を歩く人々の中から咳き込む音が聞こえる。  湿度が低く、乾燥した状態が常であれば、乾燥に弱い人がそういう反応を示すのも当然だろう。 「マスクで気休め程度の対策ってとこか」  一人で山の方に向かう。  ラツィリの言っていた、失くした部品が見つかるんじゃないかと、あるかどうか怪しい幸運を期待する行動だ。  それ以上にやることがなくて暇だったというのも大きいけれど。 「あれ?」  今日はやけに人の姿を見る気がする。ほとんど誰も通らないような寂しい山道で、何かを探して地面を嗅ぎまわっている若い男ばかりだ。  どうやらグループのようで、向かってきたローグに向かって「邪魔すんなよ」と牽制してきた。何の話だと問い返すと、「ここで見たことのない機械が見つかるから集めに来た」と目的を簡単に言ってくれる。 「見たことのない、ね。」 「そうさ、こいつを業者に売ればそこそこの金になるだろ」 「……俺はそれを探しに来てたんだ。悪いが」 「あ? 俺らが取ったんだ、そんな後出しで寄越せと言われて応じるわけねえだろ」 「早い者勝ちって訳じゃねえだろ。本来の所有者に返したいだけなんだよ」 「は、知らん知らん。証明も出来んでそんな適当こいたって無駄だ」  帰んな、と向こうは面倒そうにあしらおうとしてきた。  ラツィリの、というかヨーマンディの名前を出して返却交渉なんてのも可能だけど、ローグにそれができるかと言うと難しい。  ラツィリの関係者であって、企業そのものには関係ないのだから。 「ふうん、別に持って帰ったって、大した金になるわけでもないだろ」 「素材で充分意味があるだろが」 「……。扱いが難しいんだよ、あまり乱暴に扱うと爆発するんだ」  は? と向こうは意味がわからないと言いたげだ。 「そういうものなんだよ。特にこんな日光にさらされる場所だと、不安定になって危険になる。持っていると異様に熱くなって震えていないか?」 「……いや、そんな」 「爆発の予兆だぜ。振り回すと危険だし、車の振動でも破裂しかねない。持って帰れんのかお前らそれ」  手元にある部品と袋にでも入れているのだろう、背負った鞄を見比べて困惑しているジャンク漁りの集団。丁度手に持っているのが程よく爆発しそうな大きさの球体であるからこそ。  彼らは部品をそっと地面において、爆発から逃れようとする姿勢を取ってその場から離れていった。  姿が見えなくなってしばらく経ってから、ローグはあちこちに置いて行かれた部品を一つ一つ拾い集めていく。 「丁寧に見つけ出してくれたから楽になったな」  あとは、素直にこちらの言うことを信じてくれるあたりも。  そう言いながら、あまり面白くはなさそうに息をついて。 「学校出られただけでも感謝すべきだよなあ」  しみじみと呟いて山道を降りていった。  金属が熱を持ちやすいことくらいは彼らだって知っているけれど、ちょうどよく手に持っていた球体部品が震えていたのは、それが「ジャイロソーサー」だと知っていたからだった。  おそらくはくじらの姿勢制御に使っている部品だろう、それが三つほど転がっているのに気付いてとっさに吐いた嘘を信じ込ませた。 「爺さんの作業風景とか、見てたのもあったな」  本当、感謝しかないよと薄く笑っている。
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