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 不自然だとしか思えないし、あまり唐突にいなくなられると始末に困る。  具体的に言うとひどく寂しい。 「割と安定的な存在だったんだなあ」  動く気にならず、陽が暮れるまでずっとベッドの上で天井を見つめていた。家の中に人の存在が感じられないだけで、やたらと広く感じたのは久方ぶりだ。  虚無感なのか、寂寥感なのかはわからなかったけれど。 「あーーー……ぁ」  長く吐き出した溜息が、どちらとも言えない混色だと示しているようだった。  変な感覚と切り捨ててもいいけど。それでもなんだか物足りないのは否定しきれない。 「一人で居たはずなのに、なんで独りに耐えきれなくなってんの」  頭壊れたかな、と零すとなおのこと惨めだ。  ラツィリの置いていったものを見返して、その中にいくつかの印刷物があった。どこでプリントしたかもよくわからないけど、いくつかの文献とかニュースとかに混じって、企業の動きとか株価の流れとか、為替レートのグラフとかも混じっている。  それに合わせて関連する法律のスクラップ。  一体何を考えていたのか、何をする気だったのか。 「……どこかの国でのテロル対策。何かの穴を突こうとしていた可能性もあるのかな」  ラツィリが適当な理由をつけてここに潜伏していた可能性もある。  その場合は、貰い物と言っていた防護服の出所を知らず、ヨーマンディ社員を騙っていただけの部外者だという線。  じゃあ、夜中に家に来ていたというスーツの集団は?  別企業の訪問?  しかし競合組織であればラツィリを連れ去る理由が見当たらない。  むしろ放置していた方が良かったはずだ。 「…………だーめだ。悪い方向に想像が進む」  ネガティブ拗らせてんな、と呆れるしかない。  寝るか、起きて何かするか。幸いなのかどうか、ぼんやりしているだけであまり体力は消費していない。二時間も眠ればそれなりには動けるだろうと変な計算をしていた。  その場しのぎの体力管理ばかりしている気がするが、今更だと思った。 「嘘を吐いているようには、見えなかったんだけどな」  騙されているなら、それでもいいけど。まだ彼女を断じるのは早いと感じる。  人が好いのか、ただの考えなしなのか、それとも意地になっているだけか。  疑いたくない、と言う方が近いか。  少し眠ろう、と瞼を閉じたとき、遠い昔の映像が過ぎった気がした。この家で祖父が作業をしている光景、それを後ろから見ていたローグの視点。  なぜ今それを思い出したのか、考える間もなく意識が途切れる。
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