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 ……。  んー。  舌を噛むのって結構怖いな。  毛布にくるまって芋虫ごっこ、とか言いながら数時間ゴロゴロした結論がそれだった。  自分でもなかなかに壊れてるな、と思うこともあったが。仕方ないだろうと開き直り始めている。 「どうなるのかも分からないけどなあ……」  流石に命まで取られるようなことはしてないはずだけど、どうだろう?  何も聞かされていない状況では何も考えられない。  インフラの運用を妨害した、なんて言いようだと確かにマズいことをやっているように聞こえる。まあ気候の変化も起こっていたから、ラツィリも焦りを感じていたところではあったけれど。  転がった身体を止められず、反対側の壁に突き当たる。  もともと広くもないし、そんなものなのだろうけど。 「それにしても……聞く限り国の施設って言えるのか怪しいな」  あんな明確な犯罪発言を、本来の警察機関が見逃すはずがない。きっと暗い通路の辺りからヨーマンディが切り取った場所の筈なのだ。  壁に耳を当てたら、何か聞こえないかな?  窓がないから外を見るのも難しいけど。  じっと耳を澄ます。  ラツィリの聴覚は別に良くもないが、それでも何かは聞こえてくる。 「……、処分じゃなく……時間……。…………同一で……兄が……」  ノイズが酷くて部分的に拾うだけが限度だ。人体の無能さが恨めしかった。  なんかまたややこしいことになりそうな単語が聞こえた気がする。 「は、」 「何をしているんだい、さっきから。」 「芋虫ごっこ」  端的に応えると、見知った相手は不可解そうに眉を寄せていた。  姉の姿を見留めても、ラツィリは何も感情を動かしていなかった。  それを強がりと捉えた姉は、嗜虐的な笑みを片目に浮かべる。心底面白そうにしているのを隠そうとする辺り、似た者同士と言えなくもないだろう。  ラツィリのそんな考察など知るわけもなく。 「こちらの法においては、当然最重要施設の損壊は犯罪だと知っているよね? 特にむらくもぎょぐんは世界全体に展開している訳で―――最悪、世界中を敵に回す行動だって言える」 「むうー」 「……。一級クラスの犯罪者と言われることをしたんだよ? 分かっているの?」 「どうだろねー」 「真面目に聞きなさいよ。自分のことだよ? 興味がないとかの問題じゃあないでしょうが」 「ごろごろごろごろーーーーーー!」  まともに取り合わずに芋虫ごっこが激しくなる。  自棄になっているのか、それとも拒絶反応なのか、嫌ってしまっている姉と対面したときに対応しない方向に振り切ってしまっていた。  きっと無意識の防御手段だと分かってはいた。  それくらいに牢の前で楽しそうにしている何かを認識したくないのだろう。 「……イラつくわ。いいよ、死にたいんだったら殺してやる」 「むびゅう」 「宇宙にでも弾き出せば十分だろうがね」  上昇海流に乗せて地球外追放か、それは厄介だなあ。  厄介だけど。  私が本来目的にしてた場所だからね、なんて本心は言わないので伝わらなかった。  ぼんやり考えている間に姉は牢の前から去っていった。扉の前で顔だけ見せていたから、全体を見ることもなかったのは良かったのかも、と眠気に揺られる頭が思う。  姉貴、なんて呼ぶけれど。  ついぞあの人の名前を、ラツィリは知らないままだ。 「私の家族なんて、到底言えないくせに」  だからこうやって娯楽のように痛めつけられるのだろう、気に入らないから撃たれるままになんかなってやらないけど。  時間の感覚も分からないまま。  再び眠りに落ちていく寸前、なんだか騒がしいなと思う。  地下空間で音が響くだけなのだとしても。  何もないよりはいいな。
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