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 結局、ヴェンラグーンの攻撃は相殺された。  水圧で押し返されて、打撃自体が威力を持たなかったが。  退いたのちに、周囲が暴風に包まれたことで、どちらも追撃をためらっている状況だった。  そうして、それでいいのだとラツィリが言っていた。 「本当に、この方がいいのかな」 「大丈夫。この天気なら、気付かれないで逃げられる」 「逃避、でいいの?」 「違うよ、優先の方」  言葉は正しく使わないとね、とおどける言い方だったのはどうしてだろう。  エプジオは考えるけれど、五秒でどうでもいいかと首を揺らした。  目的は分かっていたが、どうしても逃げられるものでもないと思っていた。 「それに、追いかけてきた方が手っ取り早いからね」  ローグにもその意図は分かってしまい、根深い問題なのだと改めて思う。  人生を歪めてしまうほどの歪な存在。  ラツィリほどの力があるからこそ、その原因をかなり早くから意識できていた。  今から何をしようと、もう遅いとしか言えないのだろうけど。 「ん、ぃ……」  ラツィリの身体がぶるりと震えた。  体温が下がっている、とすぐに判る。防護服を着ていると言っても、長時間の雨ざらしに耐えられるわけもない。 「送風機を捨ててきたのが失敗だったかな」 「あの時はそうするしかなかっただろ、今言ってもしょうがない」 「まあねえ。このまま動いたら風邪ひいちゃうな」  死ぬ気はないみたいだ、となんとなく感じた。ならそれでいいのかと思って、さっさと行こうよと声をかける直前。  耳が壊れそうになるほどの轟音と  網膜が焼けそうになるほどの閃光  遅れて全身を焼きそうになる異常な熱量が  二秒の空白を置いて一気に感知される。 「……っく、そ」  焼けた視界が戻るよりも先に、その場にいる皆の様子を確かめようとしていた。  どくりどくりと心臓が脈打つ。  血流が激しくなって痛いと感じるほどに、苦しい。 (……今の、雷か?)  こんな場所で、と思うけれど。  そもそもこの地域の気象を知らないのなら、そんなことは言えないはずだった。  誰かが、なのか。自然に、なのか。  とりあえず置いておき、重低音の残響が消えきらないうちに左手がラツィリの衣服に触れたのを感じた。  ローグと同じように、その場にうずくまっていたようだ。  痺れる聴覚が戻るまでは、全身を使って庇う姿勢を取った。 「……、なんだありゃあ」  声が、誰のものか分からない。  だけれど、その意味が全員に伝わっているのはなぜかわかる。  自分たちの足場になっている瑠璃くじら、それと向かい合う位置に、そしてこちらを見下ろす高度に、二倍ほどの大きさの鯨が浮かんでいる。  色が違うが、視界の焼けが残っていて読み取れない。  空に浮かぶ艦船、そう表現した方が分かりやすいだろうと暢気に思った。  早く行こうと声をかけようとしたが、耳が回復していないのか届いていない。  背を叩いて促した。
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