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「よいしょ、っと」  エプジオはローグと同時に吐き出された「胡乱」を担ぎ上げる。  生きているようだったが、気を失ったまま微動だにしない。脱力しきっていて重いけれど、文句を言う相手も居ないのでそのまま呑み込んだ。  陸を離れて、加速し続ける瑠璃くじら。  海上を滑るように泳いで、空気を切り始めると全員の服から水が飛び始める。  湿気の多い海にあっても乾いていくようなずぶ濡れは、やはり体を冷やしてしまってよくない。エプジオの視線は普段と同じようにラツィリに向かっていた。  妹の傍にはローグが屈んでいて、ラツィリの服を端の方から絞って水気を抜いている。  見ているうちに、ラツィリの方が面倒くさいと感じたらしく、自ら白衣を脱いでばさばさと風に当てて乾かしていたが。 「さむいー!」 「当たり前だろ⁉」  防護服の下が薄着に過ぎたせいで、風を直接肌に受けてしまっていた。  気化熱で急激に冷えてしまって、また屈みこんでいる。  ローグが風上、進行方向に回り込んで風を遮っているが、まあ気休め程度のものだろう。 「なんだか楽しそうだな、あの二人は」  くじらの隣で併走しているヴェンラグーンの眼に光が灯り。  エプジオは「いけないな」と自分の感情を抑え込んだ。  どうしても自分の妹には過保護になりがちだ、と自覚していて。  というか本人から「溺愛されると困る」と苦言を呈されても、改善の兆しがないので呆れられていたところだった。  背中でぐったりしている同年代の妹にも、そういう風に接することができていたかは分からない。家族でないと思っていたわけではないけれど、それでもどこかで差をつけていたのは確かだ。  知らない場所から来た、出自のわからない親族。  平等に扱うことを意識した時点で平等でない、とどこかで思っていた。 「…………」  ふしゅぅう、と白い龍が音を立てた。  エプジオが隠した嘆息を、代わりに発したのだろう。  脳波リンクを切ることには、どちらも慣れていない。だから、こういった不意の感傷を隠すのは苦手意識があった。 「すまないね、ファラミュー。そこまで追い込むつもりもなかったんだ」  意識のない相手に謝罪する意味もなく。  これは後でもう一度言っておくべきだと、脳内の備忘録に刻んでいた。  ……それにしても。  どうしてぼくは、ファラミューを「胡乱」と呼ぶようになったんだっけ?
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