5

12/14
前へ
/65ページ
次へ
 イルカが鳴いた。  吸気が強く、倒れているアレグリをずるずると引き寄せる。  その邪魔をするように、イルカの体躯が何度も衝撃を受けて揺らいでいた。金緑くじらのベクトル操作を直接イルカに向けている。  水に干渉して波を起こすなんてのは、ただの先入観でしかなくて。  実際にはなんにでも直接作用させられる手段だ。 「……、いい加減に」  振り落とされて足場に座り込んでいるファラミューの声が終わる前に、ローグの脚が動いていた。駆けて近寄り、アレグリの後頭部を裏拳で叩き落としていた。  ぐらぐらとバランスが保てないと思っていたが、気付けば金緑くじらが宙に浮かび始めている。既に数メーターほどの高さに上がっていて、ここから加速していくのかと思った瞬間、アレグリの腕がローグの首を掴む。 「お前……!」  向こうは何も言わない、それでも爛々と光る眼には色濃い殺意が宿っている。  無意識にその感情が剥き出しになっている、と感じた。  思考が介在していない、本質? 「潔く死ね」  ぞくりと首元に粟立つ感覚。  死を前提にしていて、その為に。  自殺志願ではなく、地球に見切りをつけていて、だから、好き勝手やってしまおうと?  こんな立ち位置に居て、それを本気で思っていた? 「……ふざけるな、死にたいなら独りで死ね。大勢の生きたい人間を巻き込むな」  自らの首を握り潰そうとする腕になんて構うことなく、ローグは意識が落ちる前に右腕を相手の顔面に手加減なく撃ち込んだ。  骨が砕ける手応えは、これから忘れようもないなとどこかで思い。  ぐらりと倒れ、くじらの背から滑り落ちていく。  真下にある澱んだ青色に呑まれても、それはどうでもいいこととしか考えられなかった。  ただ、惜しむらくは。  爺さんがもう少し力ずくで、あいつを止めていれば。  今更なことだったけど、その若しも(ルート)に乗ってほしかったと思うのは、当然じゃあないだろうか?
/65ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加