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イルカが鳴いた。
吸気が強く、倒れているアレグリをずるずると引き寄せる。
その邪魔をするように、イルカの体躯が何度も衝撃を受けて揺らいでいた。金緑くじらのベクトル操作を直接イルカに向けている。
水に干渉して波を起こすなんてのは、ただの先入観でしかなくて。
実際にはなんにでも直接作用させられる手段だ。
「……、いい加減に」
振り落とされて足場に座り込んでいるファラミューの声が終わる前に、ローグの脚が動いていた。駆けて近寄り、アレグリの後頭部を裏拳で叩き落としていた。
ぐらぐらとバランスが保てないと思っていたが、気付けば金緑くじらが宙に浮かび始めている。既に数メーターほどの高さに上がっていて、ここから加速していくのかと思った瞬間、アレグリの腕がローグの首を掴む。
「お前……!」
向こうは何も言わない、それでも爛々と光る眼には色濃い殺意が宿っている。
無意識にその感情が剥き出しになっている、と感じた。
思考が介在していない、本質?
「潔く死ね」
ぞくりと首元に粟立つ感覚。
死を前提にしていて、その為に。
自殺志願ではなく、地球に見切りをつけていて、だから、好き勝手やってしまおうと?
こんな立ち位置に居て、それを本気で思っていた?
「……ふざけるな、死にたいなら独りで死ね。大勢の生きたい人間を巻き込むな」
自らの首を握り潰そうとする腕になんて構うことなく、ローグは意識が落ちる前に右腕を相手の顔面に手加減なく撃ち込んだ。
骨が砕ける手応えは、これから忘れようもないなとどこかで思い。
ぐらりと倒れ、くじらの背から滑り落ちていく。
真下にある澱んだ青色に呑まれても、それはどうでもいいこととしか考えられなかった。
ただ、惜しむらくは。
爺さんがもう少し力ずくで、あいつを止めていれば。
今更なことだったけど、その若しも(ルート)に乗ってほしかったと思うのは、当然じゃあないだろうか?
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